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フランス

2016年4月 5日 (火)

エマニュエル・トッド『シャルリとは誰か?』

点検読書162

文春新書(2016年)刊。
副題は「人種差別と没落する西欧」。
訳者は堀茂樹。


社会学――フランス


2015年1月、ムハンマドを冒瀆した風刺画を掲載した新聞『シャルリ・エブド』が襲撃され、それに対して「私はシャルリ」をスローガンにフランス全土で大規模なデモが起きた。しかし、このデモは、単なる暴力に対する抗議活動ではなく、近年フランスを覆いつつある自己欺瞞に満ちた無自覚な排外主義であった。本書は、「私はシャルリ」と名乗った人々を、人類学的、宗教社会学的、階層的に分析し、自身の宗教であったカトリックを冒瀆する権利を他の宗教にも及ぼそうとするライシテ(世俗主義)とカトリック的不平等の容認という「ゾンビ・カトリック」、現在もしくは近い将来の年金受給者という高年齢層、中産階級以上の管理職・上級職、緊縮財政と自由貿易を志向するEU支持者という特徴が見られると主張する。これらの無自覚な不平等容認と経済政策の志向が、若者たちの職や夢を奪い、イスラム系の若者たちを過激な活動へと追いやっている要因となっている。


六部構成

1:無信仰者の増大によるアノミー化と新しい信仰対象としてのユーロ。
2:「シャルリ」の社会学的解明。
3:「平等」という価値の衰退。
4:不平等化する左翼と平等化する右翼。
5:イスラム教徒の可能性。
6:結論。

コメント
 「私はシャルリ」運動が、報じられるのを見て、正直、私は不快感に襲われました。暴力による殺戮という手段の凶暴さは当然批難されるべきだが、自分たちの正義を疑わず、他者の大切にしているものを冒瀆して、それを言論の自由や世俗化という権利や価値・習慣にすり替える西洋人的傲慢さに辟易とさせられたわけです。そうした自己反省のなさが、そのような悲劇を引き起こしたのではないか。そのように思ったのでした。そうした懸念が実現したように11月13日にパリの連続テロ事件が起きました。詳しく報道は接していませんが、このテロに対して「私はシャルリ」デモのような傲慢な行為は行われていないようです(Wikipediaを拝見するとデモがあったのは何故か「日本」でだということです)。
 本書は、まさにその点をついたがために、フランス本国では批判に晒され、著者はメディアでの発言を控えたといいます。そうした時に発言の機会が与えられたのが、日本の『読売新聞』であったことに「安堵感、開放感、孤独からの脱出感」を味わったと著者は述べております(3頁)。やはり日本のメディアでも、あの騒動に違和感を抱いた人が多かったということでしょう。
 本書による排外主義とは、アノミー論で説明されます。つまり、フランスの共通意識を担っていたカトリックが1965年から90年にかけて世俗化によって衰退し、次の唯一神としてEU及び統一通貨ユーロが信仰の対象として選ばれました。しかし、2005年の欧州憲法条約案の国民投票での否決に見られるようにEUへの懐疑が広がり始めました。こうして共通意識を失って人々がアノミー化し始めたところで、シャルリ・エブド事件が起きたことで外国人恐怖症という共通意識が出来上がってしまった。これが「シャルリ」だということです。
 では、こうしてできあがった「私はシャルリ」の「シャルリ」とはどういう人々だったのでしょうか。著者は、デモ参加者の多い都市の特徴から分析し、彼らは高年齢層の管理職・上級職で、もともとカトリックが盛んだったものの世俗化が進んだ都市が多かったといいます。それに加えて、家族構造の特徴が、権威主義的な直系家族が多い地域に見られるとします。
 一見すると、こうした特徴から見られる参加者像は、高所得層で知的な穏健な人々に見えます。また、本人たちも自分たちは、人種差別に根ざした極右的排外主義ではない普遍主義的な穏健な市民であると考えていると思います。しかし、著者はそこに危険があるといいます。つまり、無自覚さがある、というのです。
 彼らは、もともとカトリック教徒だったのですが、徐々に進んだ世俗化によって、自身の宗教を冒瀆する権利を得るようになりました。そのため、ムハンマドを冒瀆する風刺画を認められないとするムスリムの考え方に反発を覚えます。そうして、自分たちのライシテ(世俗化)という価値観を他の宗教信仰者に対して強制するという傲慢な態度を取らせます。
 しかしその一方で、物分りの良い顔をしたい彼らは、多文化主義の名の下に、移民の差異の尊重を訴え、進みつつあった結婚による同化を押しとどめてしまいました。これも無自覚な差別です。
 さらに彼らは、高所得層で、現在または将来における年金の受給者となる人々です。そうなると財政の健全さが自分たちの利益になりますので、緊縮財政を支持します。また、安定した所得があるので、通貨高の政策を取ることが利益になります。これは自由貿易支持にもつながり、自由貿易によって他国から安い商品を輸入し、さらに通貨高政策をとれば、そうした商品はさらに安く手に入れることができます。
 しかし、これらは裏を返すと、若者たちにとって不利なものとなります。まず通貨高政策とリンクした自由貿易は、他国から商品やサービスを受けるわけですから、国内産業が衰退します。国内の企業が、通貨高という足かせで国際競争力が低下する中、安い他国の商品に対抗して値下げ競争が起きるので、商品価格が低下、つまりデフレが生じます。
 デフレが生じると企業利益が低下しますので、人件費を低く抑えようとします。しかし、すでに雇用している人を簡単に解雇する訳にはいかないので、新規雇用を控えようとします。そうすると割りを食うのは、若者たちです。若者たちは就職ができず、低賃金で生き延びていくか、失業し続けることになります。
 では、この失業した若者たちへの支援をどうするかというと、通常ならば、失業保険の充実や公共事業などで就労機会を増やす財政政策を行わなければなりません。しかし、財政健全化の名の下に緊縮財政が行われますので、そうした支援は見込めません。
 つまり、「シャルリ」に象徴される人々が志向する政策は、単に無自覚な外国人恐怖症による排外主義だけではなく、若者たちを食い物にするシルバーデモクラシーであり、さらに若者たちの中でももっとも苦境にあるマグレブ諸国出身のイスラム系移民の若者を追いやります。こうして「シャルリ」によって、苦境に立つイスラム系移民の若者たちは、現状を打開するために、「シャルリ」によって象徴される現体制が避難する「イスラム国」の組織に参加することになります。現体制にとっての「悪」は、現状打破を求める者にとっては救世主になるものなのです。
 著者は、こうした無自覚な排外主義、「年金+消費物価格低下」を求める既得権益者を象徴的に「シャルリ」と呼んでいるのですが、これはフランスにおける「リベラル左派」の人々を指します。ユーロ支持ということで自国にこだわらない普遍主義で、消費増税によって健全な財政を実現して福祉国家の維持を訴え、商品価格の低い住みやすい国造りを求めています。自由貿易否定は排外主義で、通貨安やインフレ政策は商品価格を上げることになるから、人々の生活を脅かす。リベラルだったら、否定しなければならない。こういうことです。
 これって、そっくりそのまま日本のリベラルですな。以前紹介した松尾匡『この経済政策が民主主義を救う』で、中央銀行による金融緩和とそれに基づく財政政策は、欧米基準では「リベラル左派」の政策だ、と述べられていました。しかし、松尾著でも述べられているように、こうした政策を訴えるのは、欧米での現状の「リベラル」に満足できない「左派」の政策のように思えます。つまり、日本もヨーロッパも「リベラル」は、「年金+消費物価格低下」という緊縮財政とデフレが好まれていて、そのために苦境にある若者たちがより「左派」に引き寄せられている。こうしたことだと思います(つづく)。


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2015年12月19日 (土)

ド・ラ・メトリ『人間機械論』(岩波文庫、1932)

点検読書74

訳者は杉捷夫。

①哲学――フランス

②人間には肉体に魂が宿っているという二元論は誤りであり、生理学の知見によれば、人間の精神は脳の働きによる想像力の発動であることが確かである。

③唯物論と唯心論、経験と観察におる人間の研究における人間機械論の検討、動物と人間との比較、欲望と声音によって表すことで感情が生まれ、精神が形成されたということ、脳内の想像を司る機能が魂である、道徳は自己の恐怖感の表れにすぎない、感覚が体に変化を促すことで感情が生じる、これらの検討により人間は機械と言える。


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2015年12月13日 (日)

シィエス『第三身分とは何か』(岩波文庫、2011)

点検読書69

稲本洋之助、伊藤洋一、川出良枝、松本英実訳。

①政治思想――フランス

②「第三身分とは何か?全てである」。特権身分を批判し、身分にわかれた王国臣民ではなく、同じ領域に住み、同じ法に服する「国民」を創出する必要がある。それを可能にするのは、すべてが「第三身分」になることだと主張する。

③「第三身分」=国民であるとの定式化、第三身分が求めるものとしての代表理念、議会構成・評決方法、政府がこれまで試みてきた不十分な改革案への評価、シィエスが考える改革案=国民を原理とした憲法制度、身分特権を保護したまま国民になることはできないが、特権を放棄した者は国民になれる。


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2015年12月11日 (金)

佐藤賢一『カペー朝 フランス王朝史1』(講談社現代新書、2009)

点検読書67

①歴史――フランス

②メロヴィング朝、カロリング朝といったフランク王国の中の西フランク王国の国王となったユーグ・カペーを始祖とするカペー朝、そしてフランス王国。小国だったフランスが大国に至った理由は、各王の辞任の長さ、血統を維持し続け、分裂しないことにあった。

③ヴェルダン条約により誕生した西フランク王国にはじまるフランスの歴史、ユーグ・カペーの西フランク王即位から、直系男子による15代341年の歴史を各王たちのエピソードを交えてを描く王朝史。


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