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政治思想史

2016年9月 3日 (土)

森政稔『迷走する民主主義』

点検読書229

ちくま新書(2016年3月10日)刊


政治学――日本政治


現代の世界的変動の中でデモクラシーが直面する困難を背景に、失敗に終わった政権交代とその後の政治における安倍政権の独走状態の現代日本における民主主義の意義と限界を思想的に問いなおす。


3部構成

1:現代民主主義の苦況(第1~3章)

2:戦後日本の政治と政権交代(第4~7章)

3:民主主義の思想的条件(第8~10章)

コメント
 本書は、変動する現代の世界において民主主義が直面する問題について考察する第Ⅰ部や現在の民主主義が課題とする問題は何かを問う第Ⅲ部などが、現在の民主主義思想のあり方や見通しを政治思想史、政治哲学的研究成果を盛り込んで解説してくれている点で、民主主義を概観するのに便利な本です。

 しかし、圧倒的なボリュームで語られる第Ⅱ部の政権交代と日本の民主主義に関する箇所が、面白かったです。
 著者は、現在の安倍政権を「暴走」と呼ぶように、この政権に対して良い印象を持っていません。ですから、安倍政権がなぜ支持され続けているのか、またその支持の源泉である経済政策についての考えに誤解があるように思えます。しかし、だからといって民主党政権を擁護するかといえば、そうではなく、徹底的に批判しています。
 とりわけ著者が力を入れて批判しているのが、運輸行政でした。つまり、民主党政権が行った高速道路無料化政策によって、自動車に比べてCO2排出量の少ない船舶や鉄道貨物などの業界に打撃を与えて、環境負荷の小さい手段へと輸送を移行させる「モーダルシフト」を逆行させた、というのです。これは、民主党政権が掲げていたCO2削減政策とも矛盾しますし、政策の整合性がチグハグだというのです。
 また、震災後、被災地救援の名目で行われた東北地方の自動車道無料化政策でも、同様のチグハグさがあったそうです。この場合、北関東以北のインターチェンジを使用すれば、あらゆる車が無料となったため、九州から首都圏へ向かうトラックが茨城県のICまで行って東京方面にUターンするということが頻発しました。それは、税金の無駄遣い、CO2の排出増加、茨城のIC付近ではトラックが激増して、子供の登下校に危険だという批判があって、見直されたということがあったそうです
 こうした運輸行政に見られるように一事が万事、民主党政権は、経済観念や想像力の著しい欠如の下で、壮大な「社会実験」をして失敗したというのです。
 本書は、戦後の日本政治も振り返りつつ、強いリーダーシップが発揮できない政治システムから政治的統合を強める政治改革を行った結果、首相はかなり強力な権力を獲得するようになったものの、その使い方が以上のように行き当たりばったりになると大変な失敗をもたらすということに、現代民主主義の危機を持っているのです
 著者の立場からすると、次々と民主党政権とは別の意味で、「戦後政治」と決別しようとしている安倍政権の行動を可能にしているのも、こうした政治改革の結果である、といいます。私は、現在の安倍政権をそれほど危険な政権とは思っていないので、やっと丸山眞男以来の戦後の政治学が目指してきた政治的統合がなされて、首相のリーダーシップと責任が明確な政治体制ができて、日本の民主主義は安倍政権によって強化された、と思っていますので、そうした危機感は共有できていません。しかし、安倍政権が何らかの理由で転倒して政権が崩壊して、また民主党的な政権ができるとなると、それはそれで心配である、ともいえます。もっとも、そこでも有権者の決断がその数年を決めるという責任意識が生まれることは良いことだとも思っているので、それは民主主義のコストとして受け入れていくしかないのでしょう。気に入らない政権ができて、それを民主主義の「迷走」と評してしまうのは、全く無意味な論評でしょうし
 それはともかくとして、思いの外、見逃していた民主党政権とは、何だったんか、また「戦後政治」の決別という点で、民主党政権と安倍政権は表裏一体であったことを思い出させてくれて、良書だと思いました。

評価 ☆☆☆

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2016年2月 5日 (金)

小室直樹「アメリカの逆襲』(光文社、1980年)

点検読書117

副題は「宿命の対決に日本は勝てるか」。


評論


日中関係は日米関係である。日本経済の活路は中国市場にあるが、中国への進出は日米関係を危機に陥らせる。そして日本とアメリカは、国家の成り立ち、性質も正反対であり、その点を理解しないと日米関係の理解は深まらない。


五部構成
1:共産圏の市場開放が、日米関係を悪化させる(1)。

2:日米安保は日本封じ込めの同盟であり、日本の大国化は同盟関係をに危機をもたらす。自由貿易は、本来、イギリス帝国主義のイデオロギーで、アメリカは保護貿易で成長した。しかし、日本は自由貿易の受益者であるので、表面的に自由貿易に拒否の態度を示して、アメリカの自由貿易擁護の姿勢を納得させるべく努力すべき(2)。

3:戦争をするために合理的に造られた軍事国家アメリカと、平安時代・江戸時代・戦後といくども戦争放棄した平和国家日本(3)。

4:社会契約は神との契約のアナロジーで成立しており、アメリカこそ人造国家かつ宗教国家の典型である(4)。

5:トラウトマン交渉、ハル・ノート、真珠湾攻撃、勝利の機会を全て棒にふった日本の外交・軍事音痴。

メモ
徴兵制と労働者の発生(32頁)
「近代史においては、徴兵制と近代労働者の発生とは、深い関係があるのである。徴兵制をしいて大衆に軍隊教育をほどこすことは、産業社会成立のために必要不可欠な単純労働力を大量に生み出すための有効な前提条件となる。/“軍隊は労働力をつくる”というテーゼは、ヨーロッパ諸国においても、わが国においても、実証ずみである。近代軍隊におけるきびしい没人格的な訓練こそ、与えられた目的のために労働を組織化する契機を与えるものである。」

←中国の労働者は、有望だという根拠の一つであるが、近代ヨーロッパの後発工業国(ドイツ)や非西欧の日本などがこれに該当する。しかし、軍隊をなくした戦後の日本はどうであったろう。もっとも、60年代の高度成長期に主導的な役割を果たした世代というのは、軍隊経験があったかもしれないし、過酷な労働である農業労働者の次男・三男というのもあったろう。しかし、その後は、ともなると心もとない。これが先進国の成長率の鈍化を意味するのだろうか。企業が、運動部出身を求めるのは、これを補完する役割があるからだろう。

軍事力の見方
「ここで軍事力というものの考え方を記しておこう。戦力の比較をするときに、予算規模の大小や、兵器の数や、見せかけ上の性能をくらべても、それだけでは、まったく素人だましのものにしかならないのである。/兵器の数と実践力との間に挿入すべき第一の中間項は、稼働率である。/たとえば、潜水艦を一〇〇隻もっていたとしても、稼働率が二分の一ならば五〇隻、五分の一ならば二〇隻しか動員できないことになる。三倍の兵力をもっていても、稼働率が敵の六分の一ならば、戦力比は敵の半分ということになるのだ。」(45頁)
「稼働率との連関で忘れてならないのが、故障だ。/くれぐれも忘れてならないことは、新兵器に故障はつきものだ、ということである。それも当然であって、新兵器である以上、最新の技術を駆使しなければならない。そして、”最新の技術”とは、原理的に、また実験的に、まだ十分たしかめられていない技術ということである。/新兵器はかならず故障する、これは、世界中の軍事専門家の常識だ、いや常識以前だとさえ言えるだろう。」

←ソ連の軍事力は見掛け倒し、との趣旨の箇所であるが、とりわけ二番目の引用箇所は、電化製品のことだよな、いやWindowsの新しいOSのことか、と思ってしまった。

70年代のアメリカ企業の特徴
「アメリカの企業……〔は〕、生産機械などの設備投資のための資金は、減価償却資金として企業内に積み立てておき、旧い設備をスクラップにしたときにこれを使うのだ。これならば自転車操業する必要はなく、健全ではある。/しかし、この方式にもアキレス腱はある。それはインフレにたいへん弱いことだ。せっかく設備投資のための資金を積み立てておいても、インフレが昂進してその価値がへってくると、以前の設備の何分の一の設備しか新しくは作れなくなってしまう。……さらにわるいことには、アメリカ経営者の顔が完全に株主のほうにむききっていることだ。インフレだろうが何だろうが、株式配当を維持しないと株主のきげんがわるくなる。何年か先にしか効果があらわれないような設備投資をしても、株主は評価してくれない。逆に、インフレによって資本の目減りがあって将来の生産力が落ちることが分かりきっていても、目先の利益が上がり、株主に高い配当さえ払っておけば、経営者は安泰である。」(57~58頁)

←一方でこの当時の日本の経営の特徴は、設備投資のために銀行から借り入れして、その利払のために猛烈に働くという自転車操業が特徴とされる。しかし、この70年代のアメリカの企業経営は、完全にここ20年の日本の企業と同じである。この内部留保があることが、インフレを嫌うということも、なぜ経団連などの大企業経営者グループがリフレ政策に反対なのかがよく分かる。彼らは、日本経済全体や労働者のことなどよりも、さらには自身の企業の将来の発展よりも、貯めこんだ資金の価値が目減りして、自分たちの退職金の価値が下がるのが嫌なのだろう。

自由貿易はイギリス帝国主義のイデオロギー
「ポルトガルなどは、インド航路の発見者であり、近世初頭においては、スペインと並ぶ世界帝国だったのに、だんだんおとろえてきた。生産力も、英国にくらべれば、だいぶ低い。そこへ英国が言いよってきた。ポルトガルよ、お前はうまい葡萄酒を作れ、英国は小麦を作ってやるから、自由貿易で交換すればお互いの得ではないか。これがリカード―先生の教えであり、経済の大定理である。お前はそれがわからないほどおろかではあるまいと言われて、すっかり信じこんでしまったポルトガルが、十八世紀末、リッツェン条約を結んで、自由貿易にふみきった。/これでポルトガル経済も栄え、昔日の栄光をとりもどすはずであった。ところがどうだろう。世界に冠たる英国工業の生産物の洪水のまえに、発展途上にあったポルトガル工業は根こそぎ全滅し、基幹産業は壊滅し、ポルトガル国民経済は自立してはゆけなくなった。/こんなはずではなかったと、時の宰相は厳重に英国に抗議を申しこむ。ところが、ポルトガルを呑噬(のみこむこと)してしまった英国は、手のひらをかえしたように開き直って、なんだ、お前は自由貿易を約束したリッツェン条約を守らないのか、そんなやつはこうしてくれるとばかり、軍艦をもっていってポルトガルをおどす。……こんなありさまであったから、比較生産費説は英国帝国主義のイデオロギーであると言われた。英国は言葉たくみにこれをもって他国をたぶらかし、ついにその国民経済を喰いつくしてしまうというのである。」(75~76頁)

←自由貿易反対論者が、好みそうなエピソードであるが、著者はこのように自由貿易・比較生産費説はイギリス帝国主義のイデオロギーといいつつも、日本にとっては自由貿易はあくまで有利なものであると強調する。しかし、これが有利であるということを英語で言うべきではない、ともいうのである。つまり、本来、保護貿易で栄えてきたアメリカが、何故か自由貿易こそ国益だと信じているのだから、こちらは自由貿易に抵抗しつつ、アメリカに従ってしかたなく自由貿易に参加してるのだ、というスタンスを示した方が、アメリカとの軋轢を生じないで、利益をえることができる、というのである。そう考えると、日本国内の右派と左派の半自由貿易論者という人たちは、大いに海外に日本のイメージを誤解させるために活躍してもらった方が良さそうである。


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2016年1月 9日 (土)

ランケ『政治問答 他一編』(岩波文庫、1941)

点検読書92

訳者は、相原信作。


政治思想


啓蒙思想でも反動思想でもない実証的な歴史学の手法で、国家の本質をつかみ、それを踏まえた政治を考える。


本書は「政治問答」(1838年、5~58頁)と「歴史と政治との類似及び相違について」(1836年、59~83頁)が収録されている。前者は六部に区分できる。
1:「中庸」とは何を指すか。
2:理念・社会情勢が国家の性格を決めるということ。
3:普遍的な一般理論ではなく、個別の国家を歴史的・実証的に観察する必要があること。
4:国家は個性を持った実体として把握すべきこと。
5:国家と国民との関係。
6:国家と教会との関係。
後者は、歴史によって把握された国家の性格に基づいて政治を行う必要について。

メモ
歴史とは(67頁)
「我々は、歴史の職分は事実の集積やその聯絡によりもむしろ其理解に向けられてゐるものなることを主張する。歴史は或人の云ふやうに記憶にのみ関係するものでは無く、何よりも先づ理解力の鋭さを要求するのである。」

歴史の目指すもの(67~68頁)
「事件の原因と前提とを、次に又其帰結と結果とを観察し、人間の諸計画をば、或人々を没落に導く邪路と他の人々を勝利せしめる賢明さを併せて詳しく識別し、何故に一人は頭を擡げ他の一人は敗れるか。如何にして諸国家は或は強大と成り或は解体するかを認識すること。一言で云へば、諸事象の隠れた原因を其等の表面に現れた明らかなる形態と同じやうに徹底的に把握することが残ってゐるのである。何故なら実にこれこそ歴史の目的であり、歴史なるものの目指すところは何よりも先づ此処にあるからである。」

歴史と政治(75頁)
「歴史の職分は国家の本質をば前時代の諸事象の系列から説明し理解させることであり、これに対して政治の職分は、かくして得られた理解と認識とに基づき国家本質の一層の発展、完成に尽すことである。過去の知識は現在への理解無くしては不完全であり、現在への理解は過去の諸時代に就ての知識無くしては有り得ないのである。」

啓蒙哲学批判(80~81頁)
「蓋し前世紀の哲学者達の誤謬は、思考によつて一つの普遍的教義を案出し、すべての国家が其れに依つて統治されなければならぬと考へたことであつた。個々のものを認識するに必要な研究の粘り強い操作は彼等に依つて回避された。彼等は否定すべくも無く久しい間多数の国家を蝕み来つた公共的諸問題の腐敗堕落を憎む余り、すべてを一個の空想的最良国家形態の輪郭通りに改造しなければならぬと思い込み、千差万別の各民族に対して全然同一の法を押しつけ唯一共通の国家形態を提議したのである。そして凡そ出来る事なら如何なることでも手当り次第に試みたのであるが、就中彼等が最も高貴な、第一に為さるべき仕事と考へたのは、古来より連綿として存立せる諸制度を動揺させ引き続き絶滅させることであつた。彼等の予言に従へば、実に其処からこそ普遍的幸福の端緒が得らるべきであり、若し可能ならば黄金時代の復活も其処から起るであらうと云ふのであつた。しかし乍ら其後間も無く彼等は、人間社会の成立に役立つた原本的基礎的な諸要素を動揺させ分裂不和の中に投げ入れる所行は処罰無しには済まないものであることを身に体して分つた。彼等は、それぞれの国家には、暴力や暴力沙汰によつて後退せしめられることはあつても決して容易には全く絶滅廃棄され得ないやうな各自独特の特殊性格なるものがあることを教へられた。そして最後に彼等は、彼等自身の嘗めた数々の辛酸を通じて、外ならぬ彼等自身の煽動に依つて蜂起した最下等人達の所有欲と権勢欲とが一体どんなものであるかを悟らしめられたのであつた。さればこそ此等の空想的哲学者たちは、空気を清掃した功はあるとは云へ、同時に測るべからざる災禍を人類の上にもたらし、今日も尚スペインに於ける如く国家に害毒を流しつづけてゐるのである。」


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2016年1月 4日 (月)

猪俣津南雄『窮乏の農民』(岩波文庫、1982)

点検読書88


経済思想


昭和恐慌下の農村社会の現実の姿を、マルクス経済学者の視点で具体的に描写。


三部構成。
初篇:全国の農村を、①養蚕農村、②米作農村、③多角形農村(畑作農村)、④工場・家内工業のある農村、⑤山村、⑥漁村の六つの類型に分けて強硬の影響を分析し、また内部における階層の違いにも着目している。
中篇:政府の農村政策、特に農村経済更生運動をとりあげ、末端の農村でどう受け止められたかが述べられている。
終篇:総括部分として、小作争議に現れる地主・小作の階級対立の諸相と農民運動のあり方について述べられる。


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2015年12月29日 (火)

ケインズ「若き日の信条」(1949)

点検読書83

John Maynard Keynes, My Early Beliefs, London, 1949.

『世界の名著57 ケインズ・ハロッド』(中央公論社、1971)所収。


経済思想史


D・H・ロレンスから「くたばってしまえ」といわれた若き日の超世俗的・観念的生活の精神史を振り返る。


本書は四部構成である。
第一部は、執筆の動機としてのロレンスとの出会いとロレンスに嫌われたケンブリッジの雰囲気について。
第二部は、ムーア『倫理学原理』が与えた影響として、社会との関わりである「道徳」と無関係の絶対者との関わりである「宗教」の発見とそれへの没入。善・美の厳格な定義づけの流行と快楽の抑圧。
第三部は、外の世界との関係として、伝統・因習的価値への軽視と量に価値の基準をおいて個性に目を向けないベンサム主義への軽蔑。
第四部は、現実から遊離した皮相的な青春時代の回顧。


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2015年12月28日 (月)

ケインズ「自由放任の終焉」(1926)

点検読書82

John Maynard Keynes, The End of Laissez-Faire, London, 1926.

『世界の名著57 ケインズ・ハロッド』(中央公論社、1971)所収。


経済学――経済思想


資本主義を否定するのではなく、その中の自由放任という欠陥を飼いならし、我々の好ましい生活様式を維持できるような運営方式を考えだすべきである。


本書は四部構成。
第一部(Ⅰ)は、個人主義と自由放任の思想的背景を、J・ロックからC・ダーウィンまでの思想史として振り返る。
第二部(Ⅱ・Ⅲ)は、自由放任論の教義化とその修正意見のあらわれ。
第三部(Ⅳ)は、現実における自由放任(無制限の私的利益追求)は崩れつつあるが、国家はなすべきこと、なすべきでないことの区別という問題があること。
第四部(Ⅴ)は、今後の展望として、資本主義嫌いと資本主義への修正を嫌う心情に対して、どのように能率の良い運営技術としての資本主義を説得していくか。



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2015年12月25日 (金)

安丸良夫『神々の明治維新』(岩波新書、1979)

点検読書79

副題は、「神仏分離と廃仏毀釈」

歴史――日本史

維新政府が打ちだした神仏分離の政策と、仏教や民俗信仰に対して猛威を振るった排斥運動の過程は、日本人の宗教観に影響を与えた。つまり、初詣など宗教色の弱い儀式には参加できるものの、自身の問題としての宗教へのハードルの高さを感じてしまう、というように。

戦国時代から幕末までの為政者による宗教政策の事例を追うことで、世俗権力優位=世俗権力の神格化という特徴を論じ、明治新政府による神仏分離を含む宗教政策が論じられる。次に廃仏毀釈の事例、政府による神の統制・序列化の国家神道の試み、民衆の宗教生活の変動、国家神道路線の破綻と国家優位の「信教の自由」体制の確立。

メモ
1.政治権力者の神格化への道をひらいたのは織田信長(23頁)
  現世と来世を「総見」する至高神=信長を祀る総見寺
  →これ以降、現世の権力者功績あるものが神として祀られることに(東照宮など)。
   ←中世までは非業の死を遂げたものへの御霊慰撫であった。

2.長州の淫祠破却(39~41頁)
  村田清風の天保改革の一環
  基準は延喜式神名帳に記載のある神が正祀で、そうでないものは淫祀
  (国学者・近藤芳樹の進言による)

3.国家による祭祀の統制思想(42頁)
  徂徠学派→中井竹山・履軒→水戸学・平田国学→水戸・長州藩による淫祀整理へ

4.徳川時代の反秩序的宗教の序列(43頁)
  キリスト教≧かくれ念仏・不受不施派≧一向宗・日蓮宗
  ≧流行神や御霊≧民俗信仰≧仏教一般

5.大教院体制=国家神道体制の破綻(199頁)
  国家神道体制破綻に最も影響力があったのは島地黙雷の政教分離論や浄土真宗の大教院離脱、さらには真宗信徒らの各地の抵抗による。

6.啓蒙思想家の「宗教自由」論(209頁)
  信教の自由よりも政教分離に関心が集まり、おおむね宗教に否定的。


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2015年12月24日 (木)

近衛文麿『最後の御前会議/戦後欧米見聞録 近衛文麿手記集成』(中公文庫、2015)

点検読書78

①日本史――思想史

②毀誉褒貶相半ばし、評価が難しい近衛文麿の主要論文集。

③第二次・三次近衛内閣における日米交渉の過程と破綻の記録(「最後の御前会議」)。支那事変勃発から第一次近衛内閣退陣、米内内閣成立までの記録(「平和への努力」)。昭和二十年二月に早期講和を進言した「近衛上奏文」。第一次大戦後の講和会議に随員した際の欧米の観察記録(「戦後欧米見聞録」)。第一次大戦におけるドイツの立場に理解を示し、英米の欺瞞を指摘した「英米本位の平和主義を排す」。井上寿一による解説。


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2015年12月23日 (水)

中森明夫『アナーキー・イン・ザ・JP』(新潮文庫、2013)

点検読書77

①小説――日本

②『広辞苑』が唯一認めた「無政府主義者」大杉栄が平成の日本に生きたら、何をしただろうか。何を見て、何を感じただろうか。大杉を追体験し、大杉の言葉をふんだんに用いた青春小説。現代批評のかたちをとった大杉栄入門書。

③パンクロックに目覚めた17歳の少年にシド・ヴィシャスと間違えて大杉栄が取り憑いた。自分が大杉となって自分の殻を破っていき、大杉が自分となって大杉を追体験する。大杉となってロックライブを成功させ、メーデーで大演説をし、パッチワーク知識人の兄を論破し、アイドルと恋をするアナーキーなプロット。

登場人物
東真二:主人公。17歳の誕生日にパンクロックに目覚める。
大杉栄:降霊術により、東真二に取り憑いた「ナンバーワン・アナーキスト」。
東一郎:真二の兄。テレビで人気の知識人。
桜木りん子:アイドル。
ジョニオ:本名・花村久介。パンクバンド「セックス・ジャパン」のねずみ男似のギタリスト。
天野カレン:社会運動家。東一郎の元恋人。

→主人公兄弟の名前は、今年名乗りを上げて話題になった「あの人」ですかね。天野は雨宮処凜、政治家の小藤太三太は、山本一太なわけね。

2015年12月19日 (土)

ド・ラ・メトリ『人間機械論』(岩波文庫、1932)

点検読書74

訳者は杉捷夫。

①哲学――フランス

②人間には肉体に魂が宿っているという二元論は誤りであり、生理学の知見によれば、人間の精神は脳の働きによる想像力の発動であることが確かである。

③唯物論と唯心論、経験と観察におる人間の研究における人間機械論の検討、動物と人間との比較、欲望と声音によって表すことで感情が生まれ、精神が形成されたということ、脳内の想像を司る機能が魂である、道徳は自己の恐怖感の表れにすぎない、感覚が体に変化を促すことで感情が生じる、これらの検討により人間は機械と言える。


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