ブログランキング

Amazonサーチ

無料ブログはココログ

新選組

2011年2月20日 (日)

宮地正人『歴史のなかの新選組』、岩波書店、二〇〇四年

長らく時代小説家と好事家のための題材であった新選組を本格的に歴史学の対象とした著作。

明治期において新選組は、勤王と佐幕という立ち位置の区別で後者にあり、また勤王家の西村兼文や『史談会速記録』での発言者が御陵衛士グループの生き残りが多かったため、反勤王の武装集団という位置づけであった。

これらから自由に脱イデオロギー色を施して、市井の卓越した剣客集団として再評価したのが子母沢寛であり、また司馬遼太郎の一連の作品であったろう。現在においても、この路線を引き継いでおり、彼らの思想性よりもさまざまな若者の群像劇、滅びゆく者の美学として受容されている。

本書では、そうした脱イデオロギーの新選組に魅力を感じつつも、幕末政治過程において、新選組とは何であったかを問い直す作業を、最新の研究成果を交え、厳密な史料批判をとおして行っている。

ここで著者が注目するのが、新選組内の各リーダー、近藤勇、芹沢鴨、伊東甲子太郎の政治姿勢である。

著者による幕末政治過程を特徴付ける三つの政治集団は以下のとおり。

①正常期の幕府優位体制への復帰を繰り返し執拗に志向する、「将軍譜代結合」

②幕府を排除しつつ朝廷と諸大名(特に有力な外様諸大名)との直接結合を狙う、長州や薩摩などの外様諸藩の政治集団

③孝明天皇とのしっかりとした結合の中にのみ、幕府の唯一の活路が見いだせるとした一会桑グループ

新選組の特徴はこの第三グループにある。単に「勤王」と「佐幕」では幕末政局はみることができない。この三者の競合と錯綜の政治闘争なのだ、という。

本書の特徴は、従来、単なるお人好しのお山の大将視されていた近藤勇をこの一会桑の有能な政治活動家として位置づけたことにある。彼の政治思想は、幕府の影響が強い多摩地域出身ということもあって幕府は否定しないが、基本は「勤王攘夷」である。「幕府」「勤王」「攘夷」では、「勤王」=「幕府」、「攘夷」が少し降る序列というあるようである。そのため、幕府権威復興を狙う「将軍譜代結合」には組みせず、「攘夷」を唱える孝明天皇と幕府が結合し譜代・外様諸藩を排除する一会桑グループの路線に忠実なのである。

これに対して水戸出身の芹沢鴨は藤田幽谷の「正名論」以来の「勤王翼幕」路線。つまり、幕府が天皇に忠義を果たすことで諸藩の忠誠をつなぎとめるという後期水戸学の路線だ。そのため、天皇と幕府が結合するという近藤グループと連携ができたが、長州の攘夷派に同情を寄せる水戸天狗党の思想を引き継いでいた。そのため、八月十八日の政変以後、会津藩が孝明天皇の信頼を一身に集めたと考え、過激攘夷派など排除しはじめると違和感が表に出て、一会桑に加えて譜代諸藩連合の形成に動くが、これは一会桑グループと対立する。そのため、会津に忠実な近藤グループに粛清された。

伊東甲子太郎も同様である。もともとは近藤と同じ幕府支持の「勤王攘夷」という思想から新選組に加入するが、西国の幕府を軽んじる風潮を知ることによって、外様を含めた諸藩との連合政権でないと「攘夷」を可能にする国防国家は不可能となる。また孝明天皇の条約勅許により、一会桑グループの専制に疑問をもち、一会桑グループに忠実な近藤グループから分離し、外様藩との連携により「勤王攘夷」の可能性を探る。阿部十郎の談話などから、伊東は「近藤を欺いた」とされるが、相互交流の約束は、その後も守られ、相当秘密の話に属するものも、近藤らには届いていたそうである。

近藤と伊東の関係が破綻するのは、大政奉還以後のようである。慶喜に期待した近藤は、慶喜の大政奉還の上奏やそれを受け入れた朝廷のあり方に失望した。また三条実美らを京都に呼び戻すことにも反対であった。それは近藤の思想が合致した八月十八日の政変以後の路線を否定することになる。それに対して、伊東は大政奉還に諸手を挙げて賛成し、列藩会議論に近い構想をもった。そのために伊東は殺されることになったのだ。

このように近藤は、「勤王攘夷」を可能にすると考えられた一会桑政権に忠実に行動した。これは「佐幕」ではない。攘夷を唱えた孝明天皇に忠実な路線であった。しかし、孝明天皇が急死し、時代の流れが変わると近藤は伊東のように柔軟な対応ができなくなっていた。自身が信じた路線のために、多くの芹沢や山南敬助、伊東ら同士を殺さざるを得なくなった責任を感じたのかもしれない。しかし、それと同時に孝明天皇に最も信頼された政権の一翼を担ったという自負が近藤をはじめ新選組の人々が最後まで「官軍」と戦うことができた理由なのかもしれない。

最近のトラックバック

2019年3月
          1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31