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2017年2月 2日 (木)

野上忠興『安倍晋三 沈黙の仮面』

点検読書244

副題は「その血脈と生い立ちの秘密」。
小学館(2015年11月15日)。


日本政治


祖父・岸信介、父・安倍晋太郎の時代から自民党の福田派ー安倍派を中心に取材してきた政治記者による安倍晋三首相の評伝。深く安倍家に食い込んだ経歴から、安倍首相の養育係や小学校時代からの同級生・教師などからの証言を交えて、岸信介に憧れた政治家・安倍晋三の半生を描く。


1:少年時代(第一章)

2:高校から神戸製鋼時代(第二章)

3:政治家秘書時代(第三章)

4:若手議員から拉致で注目の時代(第四章)

5:幹事長・第一次安倍内閣時代(第五章)

6:第二次安倍内閣時代(第六章)

コメント
 安倍家に長く関わってきた著者だけに愛憎半ばする評伝。
 率直に言って面白い。
 自己主張が強く、生意気で絶対に涙を見せない子供でありつつ、中学生になっても養育係の布団に甘えて潜り込む少年時代。
 周囲の期待とは裏腹に勉強が苦手な高校時代。
 アルファロメオで登校してコンパと麻雀と部活に勤しむ一方で要領の良さで単位を落とさない大学時代。
 選挙区の事情により政略的に就職したものの周囲から可愛がられる神戸製鋼時代。
 政治家秘書として間近に見る政治と父の死。
 他の同僚たちが政策で脚光を浴びる中、結果が出ずに「タカ派議員」としてのキャラ付けをし、清和会のプリンスとして出世の階段を登る新人議員時代。
 実績がないままに重責を負わされて潰れていく第一次安倍内閣時代。
 「右傾化」と「独裁者」として振る舞う第二次安倍内閣時代。

 先にも書いたように著者は、安倍家にかなり深く食い込んで取材をしてきた政治記者であり、安倍首相に対してはかなりの思い入れがあるようです。その点が、個人としての人間・安倍晋三を描いている時には大変生き生きと好人物「アベちゃん」が見られるのだけれども、政治家としての「安倍晋三」には批判的というところで、そうした評価の部分には首を傾げざるを得ない部分もあります。

 例えば、ある安倍氏と付き合いが長い自民党議員の証言として次のようなことが述べられています。
「普ちゃんは東大出身者とエリート官僚が嫌い。議員でも東大出身者とは肌が合わないのか敬遠する傾向がある。エリートだった祖父や父に対する学歴コンプレックスの裏返しではないか」(65頁)

 その上、2015年10月に発足した第三次安倍内閣の閣僚に東大出身者が、塩崎恭久厚労大臣、丸川珠代環境大臣、加藤勝信特命大臣、石井啓一国土交通大臣の四人しかいないことも指摘されています。

 かつて第一次安倍内閣が成立した頃、田中眞紀子氏が「首相なら早稲田ぐらい出ていて欲しい」、と自分の父親の業績を否定するような発言をしていましたが、たしかに安倍首相は成蹊大学法学部の出身です。エリート一家の御曹司が、エスカレーター式の私大出身ということが周囲からの嫉妬もあって攻撃の対象となっています。

 しかし、先の引用部の閣僚に関しては、例えば、本人が東大卒の鳩山由紀夫内閣では、岡田克也氏、福島みずほ氏、仙谷由人氏、亀井静香氏、小沢鋭仁氏、藤井裕久氏、原口一博氏で八名と多いのですが(仙谷氏は中退)、安倍内閣の前の野田佳彦内閣では平岡秀夫法務大臣、古川元久特命大臣、平野達男特命大臣の三名のみが東大出身者です。野田第一次改造内閣も平岡氏が岡田克也氏と入れ替わっているだけで三名です。野田第二次になると滝実氏が法相に入って四名になっています。野田第三次改造でも古川氏と城島光力氏が財相として入れ替わって四名です。もっとも、京大やその他の国立大学出身者は多いものの、そうした者を入れれば、安倍内閣でも増加してしまいます。
 ちなみに安倍首相が敬愛する岸信介の最初の内閣では、岸信介、灘尾弘吉、南条徳男、鹿島守之助、小瀧彬の五名です。しかし、この内閣は石橋湛山内閣を引き継いだものですから、岸の人選は改造内閣からです。そこでは、岸信介、唐沢俊樹、一萬田尚登、堀木鎌三、赤城宗徳、前尾繁三郎、正力松太郎、郡祐一、津島寿一、愛知揆一、今松治郎と大臣十九人中十一名が東大卒となっています。このように考えると、著者が想定する大臣は東大卒が多いというのは、官僚政治家全盛の時代であって、私大出身の党人派が首相になり始めると東大出身者が少なくなる傾向があるのかもしれません
 このように、東大出身者の大臣数で安倍首相の東大嫌いを説明するのは、言いがかりのようなものでしょう。もっとも、本書の批判を気にしてか。2016年8月に成立した第三次安倍改造内閣では東大出身者が七名になっています。

 また、安倍首相が東大出身者の議員とは「肌が合わないか敬遠する」というのは、どうなのでしょうか。この辺になると同僚議員の嫉妬の混じった勘違いが入っているように思えます。というのも、安倍首相がもっとも敬愛し信頼した政治家は誰であったかを考えれば、自ずと答えは出てきます。

 そうです。安倍首相を語るにおいて外せない盟友であった中川昭一は東大法学部卒だったのでした。

 近年出版された安倍首相に関する書籍の山口敬之『総理』も阿比留瑠比『総理の誕生』でも一章を中川に当てるほど、重要人物としてふれられているのです。この安倍首相と付き合いのある議員という人物がどうした人物かは分かりませんが、中川昭一と安倍首相との関係を知らないようなニワカ議員か、中川昭一の出身大学が東大とは思っていないような保守に対する偏見の持ち主なのでしょう

 また、安倍首相が東大出身者を敬遠しているのだったら、派閥をこえて側近議員になった加藤勝信特命大臣の位置づけが分かりませんし、総理退任後も安倍首相と親しくしていた今井尚哉総理大臣秘書官や、政見投げ出し後の失意の中の安倍首相を登山に誘ったりと復権に尽力した長谷川栄一内閣広報官、家族ぐるみの付き合いでリフレ政策を安倍首相にレクチャーした本田悦朗スイス大使などの東大出身の官僚たちとの付き合いと信頼関係は一体何なのかという印象を受けます。

 では、そうした東大を敬遠する印象を持たれてしまうのは何故かと言うと、単純に東大法学部出身者に安倍首相が嫌う「リベラル」「サヨク」が多いからでしょう。2015年の安保法制に関わる騒動でも分かるように、東大法学部の憲法学者は一致結束して、安倍政権に反対の姿勢を示しました。一部には、以前には集団的自衛権の解釈変更を容認していたにも関わらず、東大出身の憲法学の権威が違憲を言い始めた途端に、宗旨変えをするような若手憲法学者もいました。これだけでも、東大法学部の雰囲気が分かるでしょう。
 また、消費税増税に関しても、東大法学部出身の官僚、政治家、学者の多くが賛成しており、その失敗が明らかになっても、自分たちの言論の責任を負わずに、もともと増税が含まれていない「アベノミクス」の失敗を主張して、責任回避につとめています。

 安倍首相は、そうした東大の権威によって形作られてきた戦後レジームを脱却するというのが最終目的のはずです。そうした点で、東大出身者を敬遠するというよりも、東大出身者に多い、リベラルで無責任な姿勢に嫌悪感を抱いて、敬遠しているのでしょう事実として、そうした雰囲気に染まっていない東大出身者の政治家や官僚たちを安倍首相の周りに配していますし、また逆に逆に上記のような東大の雰囲気に馴染めなかった人々が安倍首相に期待を持っていたとも言えるでしょう。初代国家安全保障局長の谷内正太郎氏も2009年に出版した回顧録で、安倍首相の復活を待望しているとれる発言をしていまいた。

 もう少し述べたいところがあるので、次回に続きます。

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