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2017年2月

2017年2月17日 (金)

村上尚己『日本経済はなぜ最高の時代をむかえるのか?』

副題は「大新聞・テレビが明かさないマネーの真実19」
ダイヤモンド社(2017年)刊。

 出たばかりの日本経済の解説本です。

 著者によれば、経済とりわけ投資の情報として有用な為替予測は、中長期的には各国の金融政策に着目することが重要であるとしています。短期においては、各国の政治動向がショックを与えることがあっても、基本的には為替レートに影響をあたえることはないのです。
 ですから、トランプ政権が成立したことで、「リスク資産となったドルが売られて、安全資産である円が買われる」ことによって、円高ドル安になるという多くの経済メディアが予測していたことは、何ら根拠のあることではなく、冷静に日米双方の中央銀行のマネーの供給量で考えればよかったのです。
 こうした観点から著者は、次のように予測します。まず、アメリカ側は、トランプ大統領が公約として掲げた減税とインフラ投資といったインフレ率を押し上げる経済政策によって、すでに利上げを決定していたFRBが過剰なインフレを防ぐためにも利上げに踏み切る可能性が高くなりました。金利が上昇すると、その国の通貨が買われるので、アメリカの場合はドル高になります。さらに日本側の量的・質的な金融緩和政策の継続と相まって円安ドル高が進むとします。そして、景気回復期においては為替と株価は連動しますので、トランプ政権の経済政策がアメリカ議会に認められて実現し、FRBの利上げが3回以上となれば、日本においては1ドル=130円、日経平均23000円になるとしています

 この予測が当たるかどうかは、日米の政権が安定して自分たちの財政政策を継続・実現できること、中央銀行の金融政策が上記の通りに進むことが前提となります。もしこれらに変化があれば、著者の言うとおり、財政・金融政策から新たな判断をすればよいのです。

 本書は、こうした投資家目線での情報という点で有益ですが、副題にあるように「大新聞・テレビ」の経済メディアがなぜ間違えてしまい、またそれを垂れ流し続けるのか、という問題への指摘が興味深いです。

 著者によれば、著者のように投資家への直接的な利益に直結する情報提供を生業とするアナリストにおいては予測の精度というものが自身のキャリアアップやステータスに関わってきます。しかし、日本の経済メディアでは、予測の的中はそれほど重要ではなく、レポートの数を量産することで、質はそれほど大切ではないこと、また独立した経済評論家の場合、名前が売れることが大切なので、多くのメディアに登場するためにセンセーショナルな話題を提供した方がお呼びがかかりやすい。そのため、彼らの予測は当たりにくい、というよりも当てる気もない、ということになります。
 ですから、金融系のシンクタンクに所属している経済アナリストの予測は、読者に分かりやすく、親会社の意向に沿ったものであって、真剣に分析したものであるとは限らないということになります。
 また、読者は自分が読みたいものを読むという傾向にありますから、正確なものよりも、もっともらしく面白いものを選びます。そうすると予測の当たり外れとは、関係なく面白いものを書いたり喋ったりする人が、多くメディアに登場し、さらにメディアへの露出度がその人の「信用」を増加させることになるので、他のメディアも重宝がって使い、不確かな情報が氾濫することになってしまうのです。
 こうした日本における経済メディアのガラパゴス化は、日本において資産運用をする人口が少ないことに原因があるのかと思います。アベノミクスへの批判に、「株価が上がってだけで、一般庶民には何ら恩恵がない」というものがあります。この批判自体が間違っていますが、それ以前の問題として、「一般庶民」に資産運用をしている人が多ければ、株価が上がることそれ自体で、人々の富を直接増やすことになります。そうすれば、こうした批判自体への支持がなくなるわけですが、多く耳にするということは、一定の支持があるということでしょう。これは、「一般庶民」に株式保有者が少いことの裏返しです。ですから、経済評論でどれだけデタラメのことを言っても、自分のフトコロが痛まないので、正確なものよりも、耳心地の良いもの、面白いものを好んでしまいます。
 多くの「一般庶民」が株式などの投資資産を保有し。自らが経済政策の影響をダイレクトに受けるのだと理解すれば、間違った情報ではなく、確かな情報を選ぶようになって、ジャンクな情報を垂れ流すメディアやアナリストは淘汰されます。そのためにも、金融リテラシーを教育する必要があるのでしょう。
 本書は、そうした「ゴミ」情報を見分けるヒントを多く提供してくれています。

評価 ☆☆☆☆

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2017年2月16日 (木)

青空文庫を読む(3)

 番号は前回のつづきになります。

23.吉野作造「蘇峰先生の「大正の青年と帝国の前途」を読む」

 当時のベストセラー『大正の青年と帝国の前途』を吉野作造が読み、今の青年に忠君愛国の精神がないと嘆いている蘇峰に「何の感想も浮かばない」と切り捨てている。明治の蘇峰は、「天保老人たちよ、去れ」と鼓吹する青年の代表であったが、次世代の思想家・吉野作造による世代交代を象徴するエッセイ。

24.喜田貞吉「国号の由来」

 百済人が、「東方」を意味する「日本」という言葉で、現在の「日本」を呼んだことに始まり、「日の本のヤマト」と「ヤマト」の枕詞であった「日本」を「ヤマト」と訓ずるようになり、それが当時の唐王朝の発音で「ニッポン」、つづまって「ニホン」と呼称するようになったと述べています。「日本」もしくは「日の本」が「東方」を意味する言葉であったというのは、後々の日本語においても東北地方や北海道、千島列島を「日の本」と表していたことからもわかるといいます。本筋からは外れるものの、邪馬台国問題に関しては、神功皇后時代に滅ぼされた筑紫地方の山門の土蜘蛛の祖先であろうとしています。つまり、倭国は「日本」に滅ぼされたのであった、というのが喜田の主張です。

25.津田左右吉「建国の事情と万世一系の思想」

 神話と歴史の違いというものを強調し、歴代天皇の系譜は崇神天皇より前は信用がならないし、歴史的事実の記録としては仲哀天皇までは当てにならないとします。しかし、津田が強調しているのは、系譜的に認めても良い崇神天皇より前から、近畿地方に皇室の祖先が周辺の小国の中で指導的な立場にあり、神武天皇の東征というような分かりやすい事件によって建国の時期があるというよりも、長い歴史的過程を経て漸次に形づくられたのが日本の建国であって、特定できる建国の時期はない、というものです。
 このように始まりが明確でないところに、皇室の特殊性があり、それだかこそ、昔から続いているものだから、それを廃止するよりも長く維持させようとする思想を歴史的に形成された、とも述べます。そしてまた、皇室は「国民的結合の中心であり国民的精神の生きた象徴であられるところに、皇室の存在意義がある」と指摘し、国民主権となった時代においても、それに適合した皇室あり方を考え、「われらの天皇」として愛することが民主主義の徹底した姿である、と主張しています。

26.菊池寛「応仁の乱」

 応仁の乱についてのエッセイであるが、将軍継嗣問題や日野富子などはほとんど言及せずに、足利義政、細川勝元、山名宗全の三者の個性のぶつかり合いとして描いています。義政に関して、統治者としての能力はないものの、あれだけの大戦争を引き起こしながらも将軍の地位を守って生き残ったのだから、大した「政治家」であると評価している。何だか、『三国志』の劉禅有能説のような話で、統治者としての能力と保身に長けた小利口さとは別の才能なんでしょうな。

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2017年2月13日 (月)

週末読んだ青空文庫

番号は、前回のつづきになります。

16.谷崎潤一郎「春琴抄」

 ラストの美しさで忘れがちだけど、これってSM小説だったのね。

17.宮本百合子「女性の歴史の七十四年」

 明治維新以後の女傑から職業婦人、女性参政権運動、そして選挙権を受けた後の女性の歴史。自主的でありつつ、公共的な心を持ってこそ、政治が可能となると述べています。

18.竹越三叉「深憂大患」

 日清戦争後、朝鮮半島を勢力下におさめた日本は、その朝鮮があるがために、危機と隣り合わせの状態になりかねないと警告。それは、朝鮮の政治家の独立を維持するための戦略としての「事大主義」によって他国の干渉を呼び込みやすい土壌に原因があるので、いっその事併合してしまった方が良い、との主張も述べています。

19.竹越三叉「世界の日本乎、亜細亜の日本乎」

 これも日清戦争後の日本について。日清戦争によって東アジアの覇者がどの国かわかったものの、それがために「亜細亜の日本」など目指すべきではなく、「世界の日本」を目指すべきことを主張。なぜなら、「亜細亜」というものに実体などないのだから。

20.竹越与三郎「日本の真の姿」

 竹越史観のエッセンスの講演録。日本も世界の各国と同様に奴隷経済、土地経済、貨幣経済と段階を踏んで発展したと説明し、奴隷経済時代に現れた「荘園」が奴隷を終わらせ、土地経済時代に浸透した貨幣が次の時代を開いたといいます。
 これによって、よく理解できたのは、後三条天皇親政時代の荘園整理令によって、自分たちの土地が奪われるのを恐れた関東の武士が戦功著しい源義家に自分たちの名義人を依頼して、土地整理を免れ、これを期に関東で武士が台頭した、というもの。荘園整理令には、こういう意味があったのですな。
 こう考えると、日本の歴史において、あまりに中央集権的な権力行使をすると民主化が起きる、という法則があるのかもしれません。後三条天皇の後に貴族の土地管理人に過ぎなかった武士が台頭し、後醍醐天皇の後に馬や先祖伝来の名刀などもたない足軽などが登場して旧来の支配秩序を解体し、井伊直弼の後に下級武士の「革命」が起き、明治新政府の中央集権化の後に地主農民らの民権運動、昭和期の戦時統制の後に戦後民主主義が登場しています。権力の集中が、逆に権力の下降化をうながすようです。

21.新美南吉「手袋を買いに」

 小学生の時に教科書で読んだ通りの印象で、ほとんど変わらない。これって逆にすごくないか。小学生にも過不足なく、情報を与えているのだから。

22.津田左右吉「歴史とは何か」

 歴史家は、史料の収集や分析はもちろんのこと、それらから浮かび上がる人間の行為が他の諸事情との関係の中で、どのような精神が横たわっているかをみる哲学者の目が必要であると同時に、その史料の欠を補う詩人の素質も必要と説く。しかし、自身の見方に偏りがないか、常に自省することの大切さも述べています。

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2017年2月 9日 (木)

「青空文庫」を読み始める

 Kindle Paperwhiteは以前から所有していたのですが、どうも電子書籍の価格が高くて、急がないならBOOKOFFで買ったほうが得じゃないか、と思って、ほとんど使っていなかったのです。

 ところが英語の再勉強にと思って、Kindleで英語の本をダウンロードして読み始めていたので、何となく身近においていたのです。そうしたら、KindleからAmazonに入った時に、カテゴリーに「青空文庫」とあって、クリックしてみたら、驚きの充実度。しかも、長編の全部収録も99円で買えるものがあると知って、これは使うしかない、といろいろダウンロードしてしました。
 ランキング上位と目についたものから、読んだことないものを選んでざっと目を通すことにします。

 先日から、読んだものを一言コメント入りで紹介します。

1.坂口安吾「堕落論」

 そういえば、読んだことがなかったわ。自己の欲望を隠蔽して建前で生きていた戦前の社会から、一度「堕落」して、自己利益や選好する価値観に浸ってみる。そうした上で、自分たちの利益や価値観に都合の良い「建前」をつくっていきましょうよ。とか、そうしたもののようですね。

2.菊池寛「真田幸村」

 最初の方で、「幸村」は江戸時代に作られた名前と書かれているのですが、菊池寛の時代から指摘されていたのに、なかなか大衆文化の中に浸透しなかったのですね。そう考えると江戸時代の文化の強さというのはあなどれない。

3.丘浅次郎「戦争と平和」

 平和とは次の戦争への幕間である、という悲観的な国際政治観を披瀝したエッセイ。同じ進化論者の加藤弘之は戦争はなくならないとしつつも、将来的には経済や文化の一体性が高まって世界政府(「宇内統一国」)が成立すると考えていたのを暗に批判しています。しかし、平和が幕間であったとしても、日本は長い歴史の中で、一時的に集中的な戦争時期があるものの、幕間の方が長いような気がして、地政学的に良い国なのではないかとも思えました。

4.丘浅次郎「人道の正体」

 人道の正体とは、利他心が他の社会的動物に比べて希薄な人間が他の種族との生存競争に勝ち抜くための社会的・文化的なルールであると指摘しています。そうしたイデオロギー暴露というよりも、だからこそ利他心を強調しなければならない、という辺り、当時の日本は集団主義とは程遠く、よほど利己主義的な人が多かったのでしょう。

5.宮沢賢治「雨ニモマケズ」

 折にふれて読み返すように、端末の方に保存しておきましょう。

6.宮沢賢治「『注文の多い料理店』序」

 これはひどいな。これ「注文の多い料理店」ではなく、単行本の『注文の多い料理店』の序文ですよ。ランキング上位なのは、みんな「注文の多い料理店」を読みたかったからでしょう。こんなの分冊するんじゃないよ。

7.小林多喜二「蟹工船」

 明治の社会主義者の「志士仁人」的前衛に頼ってはダメだ、労働者各人が意志を持って団結して革命に当たろう、というメッセージが最後にありますね。使用済みの猿股を部屋の端っこにすてておくというのは、どういうことなんでしょう。当時の荒くれ者たちは、そんなこと気にしなかったのでしょうね。

8.桑原隲蔵「支那人間に於ける食人肉の風習」

 古代から中世にかけての、飢餓や復讐や籠城、嗜好のために中国人が人間を、とりわけ生きている人間を食べるために殺したという事例をあげている作品です。しかし、大半は、実際食べたのか、修辞として書いているのか、判別しがたいものもあります。ただ、人肉を食べる話を中国人が好んでいたことは確かです。
 日本では、ほとんど見られないと書いてあって、「あれ、秀吉の高松城水攻めは?」と思って確認したら、鳥取城の方でしたね。どちらにしても、『信長公記』に書かれている有名な話に言及しないのは如何なものか。

9.坂口安吾「続堕落論」

 「天皇制」についての論評ですね。誰も真剣に尊重しようとせず、自分の意見や立場を強化するための方便として利用されてきた歴史から考えれば、本音を吐き出すことから、本当の自由やルールが作られると考える著者とすれば廃止した方が良いと主張しています。

10.宮沢賢治「セロ弾きのゴーシュ」

 動物たちからちょっかい出されて、毎日朝まで楽器を弾いていたら、超絶巧くなっていたという話。

11.服部之総「新撰組」

 公武合体の尊王攘夷派の浪士集団として新撰組を池田屋事件までの概要。

12.服部之総「福沢諭吉」

 幕末維新期を、あくまで非政治的で、自己の政治思想を語らず文明の紹介者として、時代に影響を与えつつ、生き延びた学者の半生。それがなんでも言えるようになったのは、慶應義塾という経済基盤ができたから、というのは福澤の『学問ノススメ』で述べられているとおりでしょう。日本人よ、独立した人間になりたかったら、経営者になれ、という本ですものね、あれって。

13.服部之総「尊攘戦略史」

 古くてマルクス主義的史観ではありつつも、複雑な幕末史の概観を短いエッセイでつかむことができます。

14.加藤弘之「森林太郎「西周伝」の序」

 これも本当に「序」です。1頁に満たないものです。

15.福沢諭吉訳「アメリカ独立宣言」

 あらためて読むと、案外長いんですね。

とりあえず、15作品。長編は、少しづつ読んでいきます。

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2017年2月 4日 (土)

野上忠興『安倍晋三 沈黙の仮面』3

前回のつづきです。

 野上氏の安倍本のつづきです。

 あとがきに書かれていることですが、「第2次政権を担って以後、特定秘密保護法、武器輸出3原則解禁、集団的自衛権行使容認、そして安保法など、「まるで戦前回帰の軍国路線まっしぐらと映る」(自民党ベテラン議員)タカ派色だ」と自民党のベテラン議員の発言を引いて批判しています。

 しかし、これらの政策は「戦前回帰の軍国路線」なのでしょうか。戦前の軍国路線というのは、国の予算の半分くらいが軍事費であったり、士官級以上の軍人への処罰の甘さ、非国際協調主義的で単独行動主義、また欧米列強に対する敵意によるアジアモンロー主義的な政策、国際紛争解決のための武力行使への傾斜、国際社会の現状打破勢力に組みしたこと、私有財産を否定する社会主義的言論ばかりではなく政府を批判する自由主義的な言論への弾圧等々に特徴があるでしょう。安倍政権には、これらの特徴があるのでしょうか。
 まず特定秘密保護法というのは、安全保障に関わる情報の漏洩を防ぐための法律であり、基本的には罰則対象は政府の中にいる公務員です。また、なぜこうした法律が必要になったかといえば、外国からもたらされた情報を外部に漏らした場合の罰則規定が日本にはないために、同盟国であるアメリカでさえも日本と情報を共有したがらない、という事情があったからです
 具体的にそれがあらわれたのが、2013年8月31日にオバマ米大統領が表明したシリアへの軍事攻撃に対する日本の支持をめぐる暗闘です。詳しくは山口敬之『総理』第4章を読んでいただくとして、簡単に述べると、安倍首相はシリアへの軍事攻撃への支持を求めるオバマ政権に対して、アサド政権が市民に化学兵器を使った決定的な証拠を出さない限り、日本は支持しないと交渉を持ちかけたのでした。これは、不確かな情報によってブッシュ政権のイラク攻撃を支持してしまった小泉純一郎政権を政権中枢で間近に見てきた安倍首相の反省に基づく対応です。アメリカ側は、当初はそれを拒否します。しかし、安倍首相は山口敬之氏へのメールが傍受されていると想定しつつ、強い拒絶の意思を明らかにしていると、アメリカ側が折れてきて、明確な映像証拠を出した上で、支持を求めてきたというのですが、特定秘密保護法がない日本に恩を着せたという不満を表明されたそうです
 そうなると日本側は、安全保障に関わる情報統制法を整備する必要が出てきます。それが2013年10月25日の閣議決定、同年12月6日参院通過というスピード成立を必要とした理由となったのです。ですから、特定秘密保護法は国際協調主義に基づいたものであり、単独行動主義でもアジアモンロー主義に基づくものでもありません

 集団的自衛権行使容認と安保法制も同様です。そもそも「集団的自衛権」という概念は、第二次大戦末期に成立した国連憲章第51条によって成立した概念です。これだけで「戦前回帰」という批判は無知から出たものと言えるでしょう。
 もっとも、軍事同盟というのは、有史以来存在したものですから、それを集団的自衛権と考えれば、「戦前」にもあったに違いありません。しかし、国連憲章で成立した集団的自衛権は、あくまで大国で構成される安全保障理事会の常任理事国の恣意的な拒否権の運用によって、小国の安全保障が守られない場合に備えたものであって、しかも安全保障理事会による集団安全保障的措置をとるまでの限定的な対処に限られます。単なる軍事同盟を根拠付ける権利ではありません。
 また、戦前の「軍国路線」の失敗というのは、東アジアにおける単独行動主義とドイツ・イタリアなどの現状打破勢力と軍事同盟を結んで、ともに新しい国際秩序を創出しようとしたことでした。今般の集団的自衛権行使容認の憲法解釈は、安全保障理事会の常任理事国の主要な構成国であるアメリカ合衆国との協調を確かにするためのものであるし、また安保法に含まれる駆けつけ警護は集団的自衛権との関係というよりも、国連による集団安全保障体制への寄与を意味するものであって、日本が国際協調主義に一歩踏み出したことによります。これらによって考えれば、一国平和主義という単独行動主義や現状打破を唱える勢力との協調ではなく、現状維持勢力や国際機関へのさらなる関与を拡大するという意味で、反「戦前の軍国路線」であるのは、明らかであるでしょう。また、小川和久氏の著書によると、日本側が日米地位協定の協議をしようとすると、アメリカ側は集団的自衛権行使容認ぐらい決断してから話しに来い、と言って門前払いを食らわせるそうです。この点でも沖縄の現状を変える素地をつくるためにも必要な措置なのかもしれません。
 もっとも、これらによって自衛隊の任務が増加し、場合によっては戦後においては2001年の海上保安庁の巡視艇による不審船への撃沈以外行われたことのない他国軍やゲリラへの攻撃による死傷者の発生はあるかもしれません。人の命を奪わない軍隊としての自衛隊の性格は変わるかもしれませんが、そもそも個別的自衛権の行使としての自国防衛の際には、侵略軍を殺害することは当然となりますので、それが自国への侵略軍か国際社会の無法者かという違いのみで、想定としてはあまり違いがあるとはいえません。生命尊重の理想によって、安倍政権の路線転換を批判するのは、一つの立場かもしれませんが、それを「戦前回帰」と批判するのは、お門違いでしょう
 あと、武器輸出3原則の解禁は、実は野田佳彦民主党政権で例外規定の拡大をしており、安倍政権はそれを推し進めたに過ぎないのでした。また駆けつけ警護に関する法律改正も野田内閣の下で進められていました。これら武器輸出3原則の例外拡大や駆けつけ警護もそうでしたが、尖閣諸島国有化によって日中関係を最悪にしたり、慰安婦問題での協議拒否によって韓国側を怒らせ、李明博大統領による竹島上陸という実績を作るきっかけとなったり、原発再稼働を推進したり、公約にない消費税を増税したりと野田内閣の1年のほうが色々問題が多かったように思いますが、この点についての批判が安倍政権に比べてないことが不思議です
 また著者は、『論語』の「子貢問政」にふれて、孔子は民の信頼>食>兵の優先順位を付けているが安倍首相は逆になっていると批判しています。しかし、これもどうなのか。
 安倍首相の最大目的はたしかに憲法改正なのでしょう。しかし、安倍政権の経済政策によって失業率を減らして、有効求人倍率を急上昇させて、新卒の労働市場を売り手市場にしていることは確かなのです。また失業率の低下によって、自殺の総数が毎年数千人程度減少しているという事実があります。これは、安倍政権が何よりも「食」、つまり民衆を食わせていくことに政権の重要課題としていることのあらわれです。本書において、安倍政権の経済政策について、最後に「色あせたアベノミクス」という消費税増税批判のないアベノミクス批判というお定まりの批判一箇所しかないのが、著者自身の民を食わせることへの軽視を感じます
 また日本で初めて税に関する政策変更を争点として総選挙を実施したというのも「民の信頼」を重視しているあらわれでしょう。そもそも「民の信頼」がなくて、どうして国政選挙で前代未聞の四回の勝利と高支持率を維持できるのか。民の信頼よりも軍事優位であったら、もっと大胆な憲法解釈の変更だってできたはずです。これらの点を著者は、どう考えているのか。正直、不思議でなりません。

 まぁ、このように本書については疑問点が多いのですが、事実関係にふれた証言集としては大変面白い本です。また、拉致問題に関する安倍政権の取り組みと失敗に関しては、著者の言うとおりであると思います。日本が国家意思を示したという点で、小泉政権時の安倍官房副長官の強硬路線というのは歴史的に意味があったかもしれませんが、北朝鮮側の信用を全く失わせる悪手であり、その後の交渉に制約をつくってしまったことは否めません。こうした点は、拉致問題にそもそも関心のない左派リベラルから出ない批判であるし、拉致問題の解決や被害家族に対する同情は示しつつも柔軟路線への批判によって道を閉ざしてしまっている右派保守からも出ない批判でしょう。その点は貴重です
 安倍首相のパーソナリティについて、批判的な読み方も必要ですが、重要文献の一つとなるでしょう。

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2017年2月 3日 (金)

野上忠興『安倍晋三 沈黙の仮面』2

前回のつづき

 さて、安倍首相の幼少時代からを描く本書なのですが、そのエピソードの一つ一つは面白いものの、著者の現在の安倍首相に対する評価には少々疑問に思うところが多く、その点をもう少し述べたいと思います。

 例えば、安倍首相の保守主義について次のように述べています。
「重層的な歴史を重んじようとする保守思想とは、排除の論理ではなく、もっと深く広く文化や思想の違いを包含できるものでなければならないようにも思うが、安倍にとっては革新、リベラルは常に敵でしかない。これではずいぶん底の浅い保守しそうに見えてしまう。」(151頁)

 たしかに近代日本の保守主義の思想家として知られる陸羯南の「国民主義」というものは、自由主義も平民主義も共和主義も貴族主義も個人主義も国家主義も含まれるという特徴を主張していました(『近時政論考』)。しかし、この羯南の思想は、一方で様々な思想を包含するがゆえに、国民の中にある多様な価値観や利益の間の対立を見えなくしてしまう機能も果たしてしまう可能性もありました。つまり、本来は相容れず対立し、どちらかを選択しなければならない場合に、「まぁ、同じ国民だし、仲良くしようよ」という言葉によって、有耶無耶にしてしまうというようなものです。

 そもそも保守主義や保守思想は、単に歴史や伝統を大切にするという考え方や態度ではなく、明確な敵が現れた時の反応として、守るべき価値を改めて思想化するというものです。それならば、その敵に対して強い反発や批判は当然のように見られます。
 近代保守主義の元祖とされるエドマンド・バークの『フランス革命についての省察』を開いてみれば、彼が敵視する革命運動家への辛辣な批判や軽蔑に溢れています。現状維持や穏健という単なる保守的態度ではなく、「思想」であり「主義」として理論化を試みているのだから、その正当性を主張するためにも敵に対して攻撃的であるのは当然です
 安倍首相の保守思想は、「「進歩派」「革新」と呼ばれた人達のうさん臭さに反発した」ところから魅かれていったということですから、「進歩派」「革新」への反発の上で思想化したもののようです。それならば、相手に対して攻撃的であるのは確かでしょう。しかし、安倍首相が、その権力を使って、リベラルや左派の政治運動を排除したという話は聞いたことがありません
 反安倍のテレビコメンテーターが次々と降板していくのも、官邸が権力を使ったというよりも、視聴者から飽きられたことが原因でしょう。何だかんだ言っても国民が次の首相を選ぶ総選挙で勝利させて選出された二人目の首相であるし、国政選挙で4回も勝たせている政権です。さらに支持率が、常に40%ほどある政権なのですから、まるで評価せずに頭ごなしに批判ばかりであると、有権者である視聴者がバカにされたように感じるだけです。コメンテーターもその点を理解して、バランスの取れた評価と批判をしなければ、視聴者にソッポを向かれるのも当然でしょう。
 また、著者は、父・安倍晋太郎の「指導者たるものは先頭に立つ必要はなくバランスが大事だ」という趣旨の発言を引いて、「私が~」が多い安倍首相を批判しています。
 しかし、これこそが日本政治の無責任体制の最たるもので、指導者がバランスを取って誰からも批判されないようあらゆる立場からの意見を聞いていったら、その政策が失敗した場合、誰が責任を取るのか。指導者は各方面に配慮してと逃げるし、立案者は提案しただけ、賛同者は大勢に従っただけと責任の所在がはっきりしません。
 その点で、安倍首相は責任意識が明確です。すべて安倍首相の考えとイデオロギーに基いて決断していると述べているのだから、うまく行っていれば、それは首相の実績であるし、失敗すれば、それは直接安倍首相へと責任が及びます。国民主権というのは、国民の意向によって政権の選択を可能にすることであると思います。その点で、何を考えているか明確な安倍首相は、国民の選択基準を与えてくれている分、きわめて民主主義的な指導者であると思います
 私の理想とすれば、安倍氏を首相へと返り咲かせた有権者が、今度は自分の手で選挙によって退陣させることが日本の民主主義の発展のためには望まれるところであると思います。第二次大戦の勝利の英雄であるチャーチルを選挙で退陣させたイギリス国民のように。ちなみに私は、基本的にはアベノミクスを推進する安倍政権に対して支持をしていますが、消費税増税を「私の決断」と述べて断行した安倍首相を支持する訳にはいきませんから、それ以後の国政選挙において選挙区か比例のどちらかの一票は、消費税に一貫して反対している共産党に投じております。消費税増税の凍結か減税を公約にしない限り、私の投票行動は変わらないでしょう。

 あともう少し述べておきたいところがあるので、続きは次回です。

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2017年2月 2日 (木)

野上忠興『安倍晋三 沈黙の仮面』

点検読書244

副題は「その血脈と生い立ちの秘密」。
小学館(2015年11月15日)。


日本政治


祖父・岸信介、父・安倍晋太郎の時代から自民党の福田派ー安倍派を中心に取材してきた政治記者による安倍晋三首相の評伝。深く安倍家に食い込んだ経歴から、安倍首相の養育係や小学校時代からの同級生・教師などからの証言を交えて、岸信介に憧れた政治家・安倍晋三の半生を描く。


1:少年時代(第一章)

2:高校から神戸製鋼時代(第二章)

3:政治家秘書時代(第三章)

4:若手議員から拉致で注目の時代(第四章)

5:幹事長・第一次安倍内閣時代(第五章)

6:第二次安倍内閣時代(第六章)

コメント
 安倍家に長く関わってきた著者だけに愛憎半ばする評伝。
 率直に言って面白い。
 自己主張が強く、生意気で絶対に涙を見せない子供でありつつ、中学生になっても養育係の布団に甘えて潜り込む少年時代。
 周囲の期待とは裏腹に勉強が苦手な高校時代。
 アルファロメオで登校してコンパと麻雀と部活に勤しむ一方で要領の良さで単位を落とさない大学時代。
 選挙区の事情により政略的に就職したものの周囲から可愛がられる神戸製鋼時代。
 政治家秘書として間近に見る政治と父の死。
 他の同僚たちが政策で脚光を浴びる中、結果が出ずに「タカ派議員」としてのキャラ付けをし、清和会のプリンスとして出世の階段を登る新人議員時代。
 実績がないままに重責を負わされて潰れていく第一次安倍内閣時代。
 「右傾化」と「独裁者」として振る舞う第二次安倍内閣時代。

 先にも書いたように著者は、安倍家にかなり深く食い込んで取材をしてきた政治記者であり、安倍首相に対してはかなりの思い入れがあるようです。その点が、個人としての人間・安倍晋三を描いている時には大変生き生きと好人物「アベちゃん」が見られるのだけれども、政治家としての「安倍晋三」には批判的というところで、そうした評価の部分には首を傾げざるを得ない部分もあります。

 例えば、ある安倍氏と付き合いが長い自民党議員の証言として次のようなことが述べられています。
「普ちゃんは東大出身者とエリート官僚が嫌い。議員でも東大出身者とは肌が合わないのか敬遠する傾向がある。エリートだった祖父や父に対する学歴コンプレックスの裏返しではないか」(65頁)

 その上、2015年10月に発足した第三次安倍内閣の閣僚に東大出身者が、塩崎恭久厚労大臣、丸川珠代環境大臣、加藤勝信特命大臣、石井啓一国土交通大臣の四人しかいないことも指摘されています。

 かつて第一次安倍内閣が成立した頃、田中眞紀子氏が「首相なら早稲田ぐらい出ていて欲しい」、と自分の父親の業績を否定するような発言をしていましたが、たしかに安倍首相は成蹊大学法学部の出身です。エリート一家の御曹司が、エスカレーター式の私大出身ということが周囲からの嫉妬もあって攻撃の対象となっています。

 しかし、先の引用部の閣僚に関しては、例えば、本人が東大卒の鳩山由紀夫内閣では、岡田克也氏、福島みずほ氏、仙谷由人氏、亀井静香氏、小沢鋭仁氏、藤井裕久氏、原口一博氏で八名と多いのですが(仙谷氏は中退)、安倍内閣の前の野田佳彦内閣では平岡秀夫法務大臣、古川元久特命大臣、平野達男特命大臣の三名のみが東大出身者です。野田第一次改造内閣も平岡氏が岡田克也氏と入れ替わっているだけで三名です。野田第二次になると滝実氏が法相に入って四名になっています。野田第三次改造でも古川氏と城島光力氏が財相として入れ替わって四名です。もっとも、京大やその他の国立大学出身者は多いものの、そうした者を入れれば、安倍内閣でも増加してしまいます。
 ちなみに安倍首相が敬愛する岸信介の最初の内閣では、岸信介、灘尾弘吉、南条徳男、鹿島守之助、小瀧彬の五名です。しかし、この内閣は石橋湛山内閣を引き継いだものですから、岸の人選は改造内閣からです。そこでは、岸信介、唐沢俊樹、一萬田尚登、堀木鎌三、赤城宗徳、前尾繁三郎、正力松太郎、郡祐一、津島寿一、愛知揆一、今松治郎と大臣十九人中十一名が東大卒となっています。このように考えると、著者が想定する大臣は東大卒が多いというのは、官僚政治家全盛の時代であって、私大出身の党人派が首相になり始めると東大出身者が少なくなる傾向があるのかもしれません
 このように、東大出身者の大臣数で安倍首相の東大嫌いを説明するのは、言いがかりのようなものでしょう。もっとも、本書の批判を気にしてか。2016年8月に成立した第三次安倍改造内閣では東大出身者が七名になっています。

 また、安倍首相が東大出身者の議員とは「肌が合わないか敬遠する」というのは、どうなのでしょうか。この辺になると同僚議員の嫉妬の混じった勘違いが入っているように思えます。というのも、安倍首相がもっとも敬愛し信頼した政治家は誰であったかを考えれば、自ずと答えは出てきます。

 そうです。安倍首相を語るにおいて外せない盟友であった中川昭一は東大法学部卒だったのでした。

 近年出版された安倍首相に関する書籍の山口敬之『総理』も阿比留瑠比『総理の誕生』でも一章を中川に当てるほど、重要人物としてふれられているのです。この安倍首相と付き合いのある議員という人物がどうした人物かは分かりませんが、中川昭一と安倍首相との関係を知らないようなニワカ議員か、中川昭一の出身大学が東大とは思っていないような保守に対する偏見の持ち主なのでしょう

 また、安倍首相が東大出身者を敬遠しているのだったら、派閥をこえて側近議員になった加藤勝信特命大臣の位置づけが分かりませんし、総理退任後も安倍首相と親しくしていた今井尚哉総理大臣秘書官や、政見投げ出し後の失意の中の安倍首相を登山に誘ったりと復権に尽力した長谷川栄一内閣広報官、家族ぐるみの付き合いでリフレ政策を安倍首相にレクチャーした本田悦朗スイス大使などの東大出身の官僚たちとの付き合いと信頼関係は一体何なのかという印象を受けます。

 では、そうした東大を敬遠する印象を持たれてしまうのは何故かと言うと、単純に東大法学部出身者に安倍首相が嫌う「リベラル」「サヨク」が多いからでしょう。2015年の安保法制に関わる騒動でも分かるように、東大法学部の憲法学者は一致結束して、安倍政権に反対の姿勢を示しました。一部には、以前には集団的自衛権の解釈変更を容認していたにも関わらず、東大出身の憲法学の権威が違憲を言い始めた途端に、宗旨変えをするような若手憲法学者もいました。これだけでも、東大法学部の雰囲気が分かるでしょう。
 また、消費税増税に関しても、東大法学部出身の官僚、政治家、学者の多くが賛成しており、その失敗が明らかになっても、自分たちの言論の責任を負わずに、もともと増税が含まれていない「アベノミクス」の失敗を主張して、責任回避につとめています。

 安倍首相は、そうした東大の権威によって形作られてきた戦後レジームを脱却するというのが最終目的のはずです。そうした点で、東大出身者を敬遠するというよりも、東大出身者に多い、リベラルで無責任な姿勢に嫌悪感を抱いて、敬遠しているのでしょう事実として、そうした雰囲気に染まっていない東大出身者の政治家や官僚たちを安倍首相の周りに配していますし、また逆に逆に上記のような東大の雰囲気に馴染めなかった人々が安倍首相に期待を持っていたとも言えるでしょう。初代国家安全保障局長の谷内正太郎氏も2009年に出版した回顧録で、安倍首相の復活を待望しているとれる発言をしていまいた。

 もう少し述べたいところがあるので、次回に続きます。

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