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2016年8月 5日 (金)

吉村武彦『蘇我氏の古代』

点検読書212

岩波新書(2015年12月15日)刊。


日本古代史


欽明天皇から皇極天皇の時代に仏教を導入し、絶大な権力を誇りつつも、乙巳の変で滅ぼされた蘇我氏。本書は、蘇我氏の登場から大化の改新後の蘇我氏傍流とそこから派生した石川氏への流れとともに、日本の氏族制度と律令国家の貴族官僚としての藤原氏の登場までを描く。


五部構成

1:日本古代の氏族(一)

2:蘇我氏の登場(二)

3:蘇我氏の隆盛(三)

4:大化の改新(四)

5:蘇我氏から藤原氏へ(五)

コメント
 本書は、蘇我氏の登場から衰退、そして蘇我蝦夷・入鹿親子の滅亡後の蘇我氏を描いているものです。通史的な教科書を読んでいると乙巳の変で、蘇我氏は滅びてしまったんだろうな、と思ってしまいますが、実は傍流として生き残っていて、後に「石川氏」として律令国家の官僚貴族として活躍していったことが述べられています。そういえば、乙巳の変の際に、三韓からの表文を読んでいた倉山田麻呂は、蘇我氏の出でしたから、この事件は蘇我氏を滅亡させた事件ではなく、蝦夷・入鹿親子を葬り去った事件であったのは、考えてみれば分かることでした。
 そうしたわけで、その後の蘇我氏についても書かれているのですが、興味を惹かれたのは、冒頭の日本における氏族について書かれていたところでした。
 そもそも氏族とは何かですが、まず中国の「宗族」についての説明があります。それによると、中国の宗族とは、共通の祖先から生じた男系の血縁集団を表し、その集団を「姓」と呼びます。この名乗っている「姓」によって、同族か否かを知ることができるのですが、血縁集団が非常に分かりやすいので、同じ姓の男女は結婚しないという同姓不婚の原則があります。この同姓集団のことを人類学において「氏族(クラン)」というのだそうです。
 この姓から派生し、政治的由来や居住地名などによって成立した血縁集団を「氏」といいます。例えば、官職名の司馬や国名の曹が氏となって血縁集団を表すようになりました。しかし、こうした姓と氏の違いというのは、秦漢時代には区別されなくなって、同義として使われるようになったというのです(14頁)。
 一方の日本はというと、もともとは、そうした血縁集団はなく、名前だけであったようで、例外的に、中国と交渉する際に王族が、「倭」を姓としていたようです(例えば、倭の五王の武は「倭武」)。また、渡来系の人物が、姓を名乗っています(司馬曹達など)。しかし、これらは中国との関係で名乗られたもので、日本国内の事情によって生じたものではありませんでした。そのため、中国との交流に距離を取り始めると、王族=皇室は「姓」を名乗らなくなります。言ってみれば、中世の対中貿易するために足利義満が「日本国王」として冊封される必要があったように、姓と名があることが文明国のあかしとして考えられたということでしょう。
 日本の事情で生じたのは、「杖刀人(じょうとうにん)」や「典曹人(てんそういん)」など王権に仕える職掌集団が血縁グループとして使用されたと推測されます。これを本書では「人制」と呼んでいます。これが後の社会的分業集団にあたる「部民制」へと移行したと論じます(馬養など)。そして、その後に物部氏などの氏族が誕生したという流れになります。
 そうなると、日本の氏族集団というのは、あくまで王権に奉仕する集団で、そうした名乗りを与えるのは、職掌を与える王族となりますので、王自身は「氏」を名乗る必要がなくなります。その後、この職能に関わる氏から「源・平・藤・橘」に見られるように、地名などから採られた名称を天皇から与えられる姓へと転換しました。
 ちなみに、こうした氏・姓は天皇から与えられるものであり、姓と名を続けて読む際には、「○○の☓☓」と「の」をつけます。「の」がつかない「氏名」・「姓名」は地名などから自ら名乗りはじめた「名字(苗字)」になります。

 また、蘇我氏というと仏教導入を進めたことで有名で、蘇我稲目以前の系譜でも百済の高官「木満至」に似た満智やそのものズバリな韓子、高麗と朝鮮半島っぽい名前が付いているので渡来系氏族と推定されることもあります。しかし、著者は『日本書紀』継体紀に、日本人の男が隣国の女を娶って生ませた子を「韓子」とするという記述を引いて、「韓子」自身が渡来系であるなら説明がつかないとして、異国へのあこがれが強いとは考えられるものの、渡来系氏族とは考えられない、と指摘しています(60~61頁)。この辺りは、漠然としたイメージで考えていたことがクリアになったので、勉強になりました。

 こうした小ネタが興味深かったのですが、もう一点、興味が惹かれた話題がありました。それは次回に。

評価 ☆☆

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