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2016年7月

2016年7月22日 (金)

自民党憲法改正案と天賦人権(2)

承前

 リベラルな知人に危険視されている自民党の憲法改正案ですが、よく公式のQ&Aで「天賦人権が否定されている」ことが問題になっています。

 たしかにQ&Aをみると、Q2とQ14、そしてQ44でそのように主張されています。しかし、内容を見てみると、それほどおかしいことを言っているわけではなさそうです。

 自民党の主張は、「自然権としての人権は、当然の前提として考えている」と否定すべくもないものであると述べています(Q44)。前回紹介した長勢甚遠さんの不満とするところは、これなのですが、自民党憲法改正案では、「人権」はあるのです。

 問題なのは、天賦人権という時、その人権の基礎づけを天や神、造物主といった超越的な存在から「与へられる」というニュアンスがあるために、「現在及び将来の国民に与へられる」という箇所を削除したと言っているのです。

 まず「人権」とは何かですが、人間であるという事実だけで生じる、固有の権利をいいます。これは自然権に由来します。憲法に明記される「国民の権利」とは異なります。「国民の権利」は、自然権に由来しつつも、国民が共有する基本的権利として憲法に書き込まれた法的な権利です。ですから、北朝鮮の憲法は、「権利条項」はあるものの「人権」について書かれていませんので、憲法によって「与へられた」権利を意味します。この違いは重要かと思います。憲法があろうとなかろうと、「人権」はあるのです

 では「人権」は何によって基礎づけられてきたのでしょうか。
 一つは、J・ロックの人間は自由で平等で財産を有する自然権を持っており、各人は他人の自然権を侵してはならないという自然法に従わなければならない、という考えがあります。このロックがいう自然法は神が与えた神法であるという神学的前提に求められているので、その基礎づけは、キリスト教的神にあります

 もう一方は、I・カントの人間の生得的権利を理性的存在者としての人間という形而上学的観念によって基礎づける考え方です。つまり、人間は理性的な存在として自らの自由な意志で定立した道徳に自ら従うという道徳的能力がある、というものです。
 しかし、この基礎づけ方が成功しているかどうかは、微妙な問題となります。まず、神を前提とすると、その前提となる神への信仰を共有できない人はどうなるか、そもそも神を信じていない無神論者には「人権」はないのか、という問題に行き着きます。これは、理性的存在としての人間の権利も同様です。自立性や理性を欠いた人間には「人権」はないのか、という問題に行き着きます。
 現に近代から現代に行きつく過程で、進化論の登場によるキリスト教的神の根拠が危うくなったり、大衆の登場による「理性」をもつ自律的な市民という人間像が崩れたことによって、こうした「人権」の基礎づけ理論への広範な合意を得られなくなる状況が生まれます。
 そうした時代に、まさに人間の権利が危機に陥ります。ホロコーストに代表される大量破壊や大量殺戮のような残虐行為によて、人間自身が引き起こす暴力から個人を守るための何らかの道徳的障壁が必要なのではないか、という実際的な判断から新しい人権の理念が誕生しました

 世界人権宣言(1948年)の第一条は、「すべての人間は、生まれながらにして自由であり、かつ、尊厳と権利とについて平等である。人間は、理性と良心とを授けられており、たがいに同胞の精神をもって行動しなければならない」とあります。
 これは、あくまで人が生まれながらにして持っている権利=自然権について述べたものであって、神を前提とする「天賦人権」ではありません。「人間は、理性と良心とを授けられており」とありますが、これは神に「授けられたもの」という限定はないでしょう。また、この理性や良心があるから、人権があるのではなく、この一文は「行動しなければならない」という努力目標の前提であって、人権そのものの基礎づけではありません。「理性と良心のない人」に対しても、「理性と良心のある人」は、「同胞」として人権を守らなければならない、と述べているのです。

 日本は、この世界人権宣言について、サンフランシスコ講和条約において、その実現に努力することを宣言していますし、世界人権宣言を基礎として条約化した国際人権規約(1966年)を1979年に批准しています。日本国憲法第98条によると「日本国が締結した条約及び確立された国際法規は、これを誠実に遵守することを必要とする」とありますから、日本政府を規定する憲法において、これを否定することは困難でしょう。この条約を破棄することの国際的評価を考えれば、不可能に決まっています。ですから、自民党憲法改正案において、「自然権」としての人権を否定することはできないのです。仮に、基本的人権を明記しなくても、国際人権規約は守らなければならないのです。

 さて、このように考えますと、「自民党憲法改正案は、天賦人権を否定している!」という評価は熱心な信仰心を持っている人以外には関係ないことになります。人権に「天」という基礎づけは必要ないのです。我々は、無残な殺され方はされてはならない、という常識的・実際的な必要のために人権が必要なのです。その点で人権に関しては、天賦人権を否定することは何ら問題ではないし、よく現在の政治哲学的な議論を参照したのだな、と理解できるのだと思います。

 では、筆者は自民党憲法改正案による憲法改正に賛成か反対かというと、明確に反対です
 私は、反対派が言うほど、この改正案が悪いものだとは思いませんが、例えば、第83条の2項のような「財政の健全性」など憲法に明記する必要性を感じません。これを理由に必要な財政政策が打てずに、景気後退を傍観するというようなこの20年の歴史をリプレイするのは御免です。
 また家族条項や環境条項のように不必要な義務が多いです。憲法はあくまで政府の権限を規制するものですから、家族が助け合うというのは、国民の側で何かできるものでも、違反することで裁かれることもありますまい。しかし、それを根拠に法律ができて、ますます公権力が家族内に入り込むことを認めることになります。たしかに、家庭内暴力、児童虐待等々、公権力が入った方が良いものはあるでしょう。憲法に書くことか、という疑問があります。その上、先の財政健全化と合わせて社会保障費を削り、家族への経済的支援を義務化する法律ができたりしたら大変です

 改憲派は、諸外国では憲法改正はたびたび行われていて、憲法改正のない日本は異常だという主張をします。たしかに異常かもしれませんが、諸外国の改憲内容を見てみると、ほとんどの場合が選挙制度の改正や議員定数や議員歳費、行政官の任期の変更、税制改正などです参照)。つまり諸外国の憲法典は何でもかんでも書き込み過ぎているので改正が必要だし、多くの議員が同意できるようなものなので改正が可能だったのです。

 憲法学においては、国家の基本構造を記した基本法たる憲法典と、一般法ではあるものの国家の基本構造に関わる憲法的法とを合わせて、憲法である、という考え方があります。この基準で考えれば、日本はたびたび「憲法改正」しているといえるでしょう。先だっての選挙区と定数を変更した「0増5減」の選挙法改正は、憲法典ではないものの、憲法的法の改正であったのです。消費税の増税なども「憲法改正」にあたるでしょう。

 このように日本国「憲法」は、憲法典をいじらなくても、すでに何度も改正されているのです。それが可能になったのも、現行憲法が土台とした大日本帝国憲法が多くのことを書き込まないで、多くのものを一般法に任せるという形式にしたからでしょう。他の憲法と比べても、日本国憲法は条文の数も量も少なくなっており、大変シンプルになっています。だから諸外国に比べて、憲法改正の必要がなかったのだといえるでしょう。

 私の基本的スタンスは、別に憲法改正に関しては、否定はしません。しかし、「それほど必要か?」というものです。

 9条に関しても、「イラク派兵までできたのだし、集団的自衛権の行使も認めたんだから、それ以上は必要ないんじゃない?」という考えです。どうしても国連の常任理事国入りしたいのであれば、憲法改正は必要でしょうが、常任理事国は核武装大国の会合ですよね。日本は、核武装までできるのでしょうか。おそらくできないでしょうから、無理して入ることもないのではないか。核武装もできないような国が、国際政治の責任ある地位なんて、求めなくていいんです。そもそも国連は、対日軍事同盟に端を発しているのですから、そもそも常任理事国入りは無理なのでしょう。だとしたら、ノラリクラリと国連の集団安全保障体制の責任者ではなく受益者として生きていく方が良いように思います。そんな気がします。

 その上、先の財政健全化の姿勢は、自民党だけの問題ではなく、旧民主党の人々も共通の志向があります。与野党協調した憲法改正で可能性があるのが、こうした財政健全化を目的とした条項となると、目も当てられません

 余計なことにエネルギーを使わずに、経済の安定化と経済成長、そしてその果実による分配を考えた政策に注力してもらいたいものです

 そんなわけで、私は自民党憲法改正案に反対します!

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2016年7月21日 (木)

自民党憲法改正案と天賦人権(1)

 先日、リベラルな知人から憲法改正の危機が迫っている。あの選挙結果はまずい。という意見を承りました。

 その方は、既得権打破の改革派を常に応援している傾向があって、小泉改革はもちろん賛成、政権交代選挙でも民主党を熱烈に応援していたし、民主党政権にボロが出始めた時期でも「自民党よりマシ」とスジの通った主張をされる方です。しかし、その方がいいところは、一般的にイメージされるステレオタイプのリベラルではなく、歴史問題には大して興味がないし、集団的自衛権もあった方がいいし、憲法9条も改正した方が良いと考えている点で、「リベラル」として括られる思想傾向のある人々と一線を画している点で信頼ができます。言ってみれば、旧民主党の保守派の人々を応援している人といった方が良いでしょう。

 そうしたわけで、憲法改正自体は賛成なんだから、今回の選挙結果はその点において、問題視することはないんじゃないの、と質したところ、「安倍さんの下での憲法改正は反対なんだ」というのです。「ある動画で、自民党議員が自民党憲法改正案は「国民主権、基本的人権、平和主義」が前文に残っているからケシカランと主張していて、会場が大拍手で、そこには安倍さんもいたんだよ。怖いでしょ」ということでした。

 そこで見せてもらった動画がこれです。


 なるほど。

 自民党を代表する右派議員が総出演ですね。この「国民主権、基本的人権、平和主義」は、マッカーサーによって与えられた主張する議員は、長勢甚遠元法相です。こうした人が、法相であったことに驚きなのですが、この動画にはいくつか仕掛けがあります。

 まずアップロードが2016年6月24日なのですが、動画の元の内容自体は2012年5月10日に行われたものです。動画を見ると、「ついに憲法改正の時期が来ました」という趣旨の話を衛藤晟一議員がしていて、7月10日の選挙結果が出た後に話しているように錯覚してしまいます。私は一目見て、何か全員、ちょっと若いから、「これ野党時代のヤツじゃないの?」と疑問を口に出したら、「え、そうなの?」と先の知人は言ってましたし、誤解する人も多いかと思います。もっとも、アップロード日を見れば、それは選挙中のことだと分かるのですが、動画の編集が、「そんな選挙演説している候補はいない」という趣旨のコメントを付していますから、ミスリードではあります。

 次に、知人が震えた憲法「三原則」否定の際の会場拍手ですが、これも編集のようです。元の動画は次のものです。


 15:30あたりがこのシーンなのですが、両側の城内実さんも新藤宗幸さんも何だか難しい顔をしているだけで、賛成しているかどうかよく分からないし、問題の会場の拍手もまばらです。彼の演説で盛り上がったのは、その直後の「私は自民党議員だけど、この改正案には反対なんです」といったところで、隣の新藤さんも笑ってしまっているし、会場も盛り上がって拍手がわきます。どうやら先の動画は、この部分をすぐにつなげたために、「三原則」否定を会場全体で受け入れているようにミスリードしているのです。ちなみにこの長勢甚遠さんは、この時には政界引退を表明していますし、現に次の総選挙には出てませんので、何言っても良いと思って、こんなことを言ったのでしょう。まぁ、自民党員の中には、こういう人もいるんだ、ぐらいの理解で良いかと思います。

 あともう一点、この動画への不満は、国民主権と基本的人権を否定していることについて、「北朝鮮か?」と揶揄しているのですが、北朝鮮の憲法には、「人民主権」を明記していますし(第4条)、「人権」の規定はないものの、一応は権利についての規定があります(参照)。また、こういう保守派叩きの人が何故か例に出さない中国ですが、こちらも第2条に「人民主権」、第33条には「人権」が明記されています(参照)。

 でも、書かれているからって、それが守られているかは別ですよね。その点で言うと、成文憲法を持たないイギリスは、法の支配については明記している王位継承法はあるものの、基本的人権については言及はないし、国民主権でもないですが、立派な近代国家ですよね。また、アメリカもフランスも、それぞれ独立宣言や人権宣言を前提にしているという建前から、憲法自体には基本的人権についての言及はないのですが、特に問題はないですよね。憲法に書いてあるかどうか、というので評価の基準にするのは、どうかと思います。

 もっとも、日本は、人権宣言にあたる遺産はありませんし、イギリス人やアメリカ人ほど、日本人の民主主義を信用できませんから、国民主権や平和主義はともかくも、「基本的人権」の規定はあったほうが良いと思います。

 さて、そこで「自民党憲法改正案と天賦人権」の問題に行きたかったのですが、次回に。

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