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2011年4月12日 (火)

井上寿一『戦前昭和の社会 1926―1945』、講談社現代新書、2011年

「アメリカ化・格差社会・大衆民主主義」を「戦前昭和の社会」の特徴として再構成した政治外交史の大家の社会史の試み。社会史ということで、「章」一氏の間違いではないか、と見紛うばかりであるが、「寿」一氏であった。

結構売れてる(?)みたいで、駅前の本屋では最後の一冊を入手。

現代の時代相との類似というよりも、やはり先の特徴は、1950年代の「戦後昭和の社会」というような気がする。

社会における「アメリカ化」はいうまでもないが、「戦前昭和」の二大政党はアメリカモデルというのは、たしか三谷太一郎先生が書いていたと思うが、思い出させてもらった。日本の旧封建領主は廃藩置県で地方名望家になる機会を逃し、貴族院に引っ込んでしまったので、大衆的な保守党を形成することはできなかった。明治の政党内閣否定論者の井上毅なども日本は階級のない平民社会だから、英国的政党政治は無理と否定的であった。そのため、日本において政党政治は、戦後政治のように西欧もしくは北欧の大陸型の方がうまくいき、昭和や現在のように米国型の二大政党制になると行き詰まる様相を呈する。

また、政権党と少数党との違いはあるもののの、「復古的」もしくは「革新的」な岸信介自民党から「平和」と「経済成長」の池田勇人自民党への転換が、赤松克麿の軍と結びついた「国家社会主義」路線から平和主義・格差是正の社会大衆党への転換に類似する。どちらもイデオロギーもしくは「階級政党」から国民政党への脱却を目指している(自民党は最初から国民政党にするために、創られたものであろうが、岸の時に少し変質していた、また変質しているように思われた、ともいえるだろう)。

前者はそれにより成功して、その後30年以上も一党優位制を確立できたのは周知の通りで、後者はこの路線転換のため、党勢を活気づけたが戦争により、頓挫してしまう。どちらも「平和」、「経済中心」が「大衆民主主義」時代のリアリズムである、と当事者に理解された。

また「格差」の問題は、池田勇人のブレーンを取り上げた沢木耕太郎『危機の宰相』に詳しく述べられているように、1950年代も「格差」がテーマに挙がっていた。池田の「経済成長」路線は、「格差」を拡大させる、と当時の知識人たちは批判していたのである。そして、「経済成長」が実現して大衆がそれを支持するようになると、「嫌な時代になった」と慨嘆した。「戦前昭和の社会」でも社会大衆党と民政党による社会民主主義への期待とは別に、高橋是清、石橋湛山などの「経済成長」による豊かな社会実現の路線もあった。この対立軸は、現在も通じるものがあるようにも思える。

しかし、現在この3月以降の読者としては、ラジオの普及のところで引用される『文藝春秋』1938年6月号のラジオ評が気になる。

「事変下に於て国策の線に沿うて、放送協会では演芸放送に自粛自戒を率先断行している。文化の統制もこの際必要なことである。だがそれにもまして必要欠くべからざることは、銃後の士気を鼓舞するところの、新文化の創造へ対する指導的精神の確立である。国民は国策遂行のためには増税も物価の騰貴も欣然と負担する。節約も貯蓄も励行する。そのあらゆる物資生活に対する緊張は、精神生活で慰安されなければならぬ。」

自粛ムードの中で、自粛し過ぎるのは如何なものか、という提言。2月に書き終えている本書が、現在の状況を予見していたと思わせるような的確な引用にハッとさせられる。非常時の反応は、いつも繰り返されているようだ。

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コメント

はじめまして、突然で恐縮です。パピガニと申します。
同じ書籍の記事として、当方ブログからリンクをはらせていただきました。
失礼しましたー「(^^)

パピガニさん

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» シリーズ戦前昭和(その2) 『戦前昭和の社会 1926-1945』 井上寿一著 [アイフォニア(iPhoner)にはこれがいい!]
 日本の戦前について、さらりと俯瞰するにはこの本を読むのが良いでしょう。新書なので短時間で読めます。特に社会的・文化的な日本の状況を多く書いています。私が注目したのは、戦争が格差是正に繋がったと明言している点です。また、日本がドイツのヒトラーの政権を模範にしていたことが分かります。宗教、メディアの状況にも踏み込んだ解説があり、まさに戦前昭和の社会全般について、短い文章で詳しく書いているといえます。 政治*軍事*経済*社会***文化***生活** この本の書評記事へのリンクを載... [続きを読む]

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